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息子の親友と過ごした時間は、宝物のような日々だった

「しゅんくん、熊本に引っ越すらしいよ」

夫からひっそりと伝えられたそのニュースは、私の胸をぎゅっと締め付けた。

「え……嘘でしょ? いつ? どうして?」

もうすでに半泣きだ。どうやら夫は、さっきうちに遊びにきたしゅんくんのお母さんにこっそりと打ち明けられたらしい。隣の県の熊本に引っ越すのは、数ヶ月後……。

しゅんくんは、今三年生の我が家の息子の同級生。一年生の時に大分市の小学校から引っ越して、すぐに息子と仲良くなった友達だ。息子は意外と恥ずかしがり屋で、大勢の子とわいわい遊ぶというよりは、自分の安心する少人数の友達といつも一緒にいるタイプ。

二年生でしゅんくんとクラスが別れてしまい、しばらく経ったころ、息子にクラスに仲のいい友達がいるかと聞くと名前が全然出てこなくて心配したときもあった。その後徐々に他の子の名前が出てくるようになった。

三年生になり、またしゅんくんと同じクラスになってからは、二人はいつも一緒で、放課後も休みの日もうちに遊びにきたり、遊びに行ったりととても気が合うようだった。夏休みはうちの庭で一日中プールで遊び、次男も一緒に三人で丸焦げになった。温泉に行ったり、川に行ったり……思い出は尽きない。


小学2年生になるくらいまで、私は長男の子育てにヒーヒー言っていた。繊細でなんだか気難しい息子の特性。それに全然うまく合わせられない私は、子育ての自信を失っていた。

しゅんくんと付き合い始めてからの息子は、少しずつ性格が柔らかくなってきたような感じがする。しゅんくんは本当に優しい。息子のわがままにもすぐに「うん! おらはそれでいいよ!」と言ってくれる。自分のことを「おら」と言い、語尾には「〜なのだ」をつけるしゅんくんの話し方は、なぜか昭和を感じさせ、無条件に癒やされる。長男の後ろをついていく次男坊にもいつも優しく声をかけてくれた。


そんなしゅんくんが「いじめ」に遭っているのを知ったのは、今年の5月ごろだった。

複数人の子に耳を引っ張られたり、叩かれたりしていることを知り、胸が張り裂けそうになった。息子は、クラスの中でなんとかしゅんくんを庇おうと行動していたことを学校の先生たちから聞いた。

親同士の話し合いが続き、しゅんくんのお母さんも疲労困憊だった。自分にできることは少なかったけど、しゅんくんのお母さんに「しゅんくんは絶対に人に意地悪をするような子じゃない」と伝えては、お母さんと一緒にボロボロ泣いた日もあった。

夏前には、「いじめ」も解決に向かい、しゅんくんの笑顔も戻ってきて、心からホッとした。息子が大切な友達がいじめられている時に何か行動しようとするような人間に育ってくれたことがとても嬉しかった。


いつまでも二人がこうして仲良く遊べるものだと思っていた。


しゅんくんが引っ越すことを聞いた日は、4年ぶりにある町の花火大会に一緒に行くことになっていた。うちで夕ご飯を食べて、長男次男、しゅんくんを車に乗せて夫と花火大会会場へ向かう。真っ暗な中「冒険だー!!」とダッシュで会場に走る息子たちを「待ってーーー!!」と、全力で追いかける私たち夫婦。全然追い付かず、ゼーハー走りながら、なんだか笑えてきた。

人がたくさんいる会場についてからは、小学校の友達と会って嬉しそうに駆け回る子どもたちだった。

大きな歓声とともに夜空に花火が打ち上がった。



息子たちの歓声も大音量の音楽と大きな花火の音にかき消されていく。


3000発の花火が上がり、最後の花火が散った時、しゅんくんが言った。

「こんなサイコーな夜、初めてだ!! なあ、今日って人生で最高の日だな!」

嬉しそうに「最高だ!」と頷く息子たち。その姿を見ながら、もっともっとずっと一緒にいれたらよかったのにな……と切ない気持ちが込み上げてきた。


私自身子どもの時に3回の引っ越し、転校を経験している。子どもの時は思うのだ。

「きっとまたすぐに会える」

だけど、実際は転校した後、「また」は来なかった。県内の転校だってそうなのだ。まして、しゅんくんが県外に行ったら……。


「来年も絶対来ような!」

そんな約束をしている息子たちを見ながら、私は心に決めた。

しゅんくんが引っ越した後、彼らが会いたいと願うのならば、できる限りそのお手伝いをしよう。幸い、熊本は私の故郷だ。じいじばあばに会うついでにしゅんくんにも会いにいけばいい。今のように毎日は遊べなくなるけれど、ずっとずっと繋がっていればいい。

大好きな友達と何度も何度も別れてきた私だからこそ、息子のためにできることがあると思った。それはどこか私の中の「子どものわたし」が今でも願っているような気がするのだ。


いつか大人になった彼らは、どんな話をするのだろう。
きっと初めて一緒に見た花火大会の感動は覚えているだろうな。

別々の道を歩む友と、これからも繋がっていけたらいいね。

余計なお節介かもしれないけれど、これしゅんくんの優しさに癒されていた一人の大人の、小さな夢なんだと思う。



今年の夏。みんな元気に大きくな〜れ!






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