狩野山楽筆 源氏物語図屛風―物語図と風俗画のあわい―(國華1550号〈特輯 源氏物語図屛風〉要旨)
福士雄也
紙本金地着色 六曲一双 各縦156.1㎝ 横358.6㎝
ここに紹介するのは、『源氏物語』から「若菜上」「薄雲」「絵合」「常夏」および「帚木」「紅葉賀」「乙女」という計7場面を選び、六曲一双屛風に描いた作品である。各隻には狩野山楽(1559~1635)の基準印が捺され、「聖徳太子絵伝」(四天王寺蔵)等との比較により、山雪ら門人の手が入る可能性はあるものの、山楽自身が制作を主導したと考えられる。
各場面の表現には、大きくふたつの特徴がある。ひとつは、風俗画的な要素が豊富に盛り込まれていること、いまひとつは、狩野派よりもむしろ土佐派の源氏絵に近い特徴を有することである。前者は、山楽筆「車争図屛風」(東京国立博物館蔵)等にも見られ、源氏絵と風俗画が接近してゆく近世の一動向として把握できる。また後者は、土佐派粉本を通じた、山楽による大和絵図様習得の成果と理解できるだろう。
江戸時代初期の狩野派による大画面の源氏絵として、きわめて重要な意義を有する作品である。