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「立ち止まり、見ること」 - リチャード・セラのアイスランド彫刻「Áfangar」と関連するノートブックドローイング(論文読)

アメリカ出身でポスト・ミニマリズムを代表するアーティスト、リチャード・セラ。彼に関する論文の中でも今回はアイスランドに設置された彫刻作品「アーファンガー」について研究された論文から、彼の作品性を読み解いていきます。

リチャード・セラについて

リチャード・セラ(英語: Richard Serra、1938年11月2日 - 2024年3月26日)は、アメリカ合衆国・サンフランシスコ出身の彫刻家、映像作家。装飾を削ぎ落とした鋼板による抽象的な巨大彫刻で知られる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%83%A9

セラは1938年、カリフォルニア州サンフランシスコに生まれた。イェール大学では絵画を専攻し、学生時代は製鋼所や工事現場でアルバイトをしていたという。セラのキャリアでとくに知られるのは60年代後半からだ。それまでのミニマリズムにおける閉鎖性から打って変わり、工業的な板金を用いた巨大で荒々しい彫刻を発表。ポスト・ミニマリズムを牽引していくこととなる。

https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/28697

論文「立ち止まり、見ること」の内容

「立ち止まり、見ること」 - リチャード・セラのアイスランド彫刻Áfangarと関連ノートブックドローイング
著 サンドラ・トゥーヴェニン

をベースにこのブログを書いています。

リチャード・セラの「Áfangar」とそのランドスケープ芸術

UnsplashBen Koorengevelが撮影した写真

現代彫刻界を代表するリチャード・セラは、その革新的な作品で広く知られています。特に、特定の場所に応じて設置される「サイト・スペシフィック」な彫刻作品は、観客が作品と周囲の環境を一体として体験することを重視している点で特筆すべきものです。今回は、セラのアイスランドにおける代表作「Áfangar」と、その関連ノートブックドローイングを中心に、彼の芸術がどのように風景と調和し、観客に新たな視点を提供しているのかを紹介します。

サイト・スペシフィック・アートについて

特定の場所で、その特性を活かして制作する表現。「サイト・スペシフィック・アート」という表現としては、立体物を設置したものが多いが、身体表現で場所と関わる、自然物の物理的均衡を用いて作品を構築するなど様々な方法が存在する。「サイト」という観点では、森林、砂漠などの自然環境、都市、村落、田園などの社会環境、さらには水中などの特殊な環境など多様な選択肢があり、また恒久性、一時性という表現上の設計の違いを見ることもできる。
「サイト・スペシフィック」という言葉を概念的に示したのは、インスタレーション・アーティストのロバート・アーウィンである。批評では、美術批評のルーシー・リパード、建築批評のキャサリン・ハウエットが1977年にこの概念をそれぞれが取り上げている。公共空間との関わりのなかに立体作品を設置したパトリシア・ヨハンソン、デニス・オッペンハイムなどのアーティストの作品によって70年代に言葉として一般化した。いっぽうで場所に関わった表現は、例えばランド・アートのロバート・スミッソンがユタ州ソルトレイクで行った《スパイラル・ジェッティ》(1970)、「包む」ことを屋外空間に拡大していったクリストの一連の作品。ウォルター・デ・マリアの《ライトニング・フィールド》(1977〜)は、雷が落ちやすい平原に400本の金属棒を設置して稲妻を走らせるものだ。身体表現で言えば、振付家のトリシャ・ブラウンによる《ルーフ・ピース》(1971)は、ダンサーたちをニューヨークのダウンタウンの建物の複数の屋根に点々と配置したもので、「サイト・スペシフィック・ダンス(あるいはパフォーマンス)」とも言われる。

 また「ナチュラル・アート」とも区分されるリチャード・ロングやアンディ・ゴールズワージーの自然物を特定の場所で組み合わせた作品などもある。このように「サイト・スペシフィック」な表現は70年代以降に多岐にわたって出現している。現在は表現形式というよりは、むしろ概念として用いられる場合が多い。

https://bijutsutecho.com/artwiki/95

リチャード・セラと「サイト・スペシフィック」な彫刻

リチャード・セラは、1939年にサンフランシスコで生まれました。若い頃から自然との触れ合いが彼の感性を育み、サンフランシスコの海岸での経験が後の作品に大きな影響を与えました。セラの作品の特徴は、重厚な鋼鉄や鉛などの工業素材を使い、その巨大なスケールと構造で観客を圧倒する点にあります。

セラは、従来の彫刻が台座に乗せられ、美術館やギャラリーという閉じた空間で展示されることに疑問を抱きました。彼は、作品が観客との物理的距離を持たないように、また作品自体がその場所の特性に根ざしたものであるべきだと考え、場所との一体化を図る「サイト・スペシフィック」な作品を追求しました。その考え方は、作品とその設置場所が切り離せないものであるという信念に基づいています。

「Áfangar」の誕生

flickrより

「Áfangar」は、1990年にアイスランドのヴィージー島に設置された彫刻作品です。Áfangarは、アイスランド語で「道中の停止点」を意味し、これはこの作品が体験型であることを象徴しています。セラは、アイスランドの独特な自然環境と対話しながら、9組の玄武岩の柱を島の北部に配置しました。

この作品の特筆すべき点は、観客がそれぞれの石のペアの間を歩きながら、島の自然と一体化した彫刻を体験できるという点です。9組の石は広大な風景に散らばっており、観客が歩くことによって作品を感じ、その空間を再定義する役割を果たしています。セラは、この作品を通して、観客が歩きながら島の風景や地形を体験することを意図しており、単なる彫刻作品としてではなく、場所との対話を重視しています。

ランドスケープとの対話

flickerより

セラが「Áfangar」を設置したヴィージー島は、アイスランドの自然美と歴史が詰まった場所です。この島には風が吹き抜け、広がる大地が広がる一方で、観客は孤立感と共に壮大なスケールの自然に包まれます。この風景の中で、セラの玄武岩の柱は、自然の一部でありながらも人工的な存在として視覚的なコントラストを生み出します。

セラは、「Áfangar」を通じて、観客が一箇所に立ち止まって風景を眺めるのではなく、各石のペアを巡り歩くことで、風景の一部となるよう促しています。風景と作品がどのように絡み合うかを体感することで、観客は風景自体が作品の一部であることに気づくでしょう。

アイスランドの自然は、特にセラの創作活動に大きな影響を与えました。Áfangarの石柱は、アイスランドの土地から採掘されたものであり、セラはこの地での制作を通じて、自然と人間がどのように関わり合うかを探求しました。彼は、自然がただの背景ではなく、作品の一部であり、観客が風景の中に身を置くことで、自然との深い結びつきを感じることを意図していました。

ノートブックドローイングとその重要性

Áfangarでの実際のドローイングについてはこちら

セラは「Áfangar」の制作過程で、多くのノートブックドローイングを描きました。これらのドローイングは、彼がヴィージー島の地形や自然環境をどのように感じ、作品の設置場所をどのように決定したかを示すものです。セラは、作品を設置する前に、何度も島を歩き、石の配置を慎重に検討しました。このドローイングは、彼が作品の高さや空間の使い方、視覚的なフレーミングを計画するための重要なツールとなっていました。

ノートブックドローイングは、セラが風景をどのように解釈し、その解釈をどのように作品に反映させたかを示すものであり、Áfangarのようなサイト・スペシフィックな作品においては特に重要な役割を果たします。これらのドローイングは、彫刻が場所とどのように結びついているかを理解するための手がかりを提供し、観客が作品を体験する際にもその意図が伝わるように設計されています。

セラの作品が提供する体験

リチャード・セラの彫刻は、観客がその場に立ち、動きながら体験することを重視しています。「Áfangar」もその例外ではなく、観客が島を歩きながら各石を巡り、その風景と作品の関係性を感じ取ることが求められます。この作品において、観客は単なる観察者ではなく、風景の一部として作品に参加することが求められます。

セラの作品が提供する体験は、従来の彫刻作品とは異なり、動きと時間を必要とします。観客が歩くことで、彫刻の形や位置が異なって見えるため、視点が絶えず変化し、作品の見方も変わります。この動的な体験は、セラが作品を設計する際に最も重視した要素の一つであり、観客が作品と場所の一体感を感じることを可能にします。

アートと風景の融合

「Áfangar」は、リチャード・セラが長年にわたって追求してきた「アートと風景の融合」を体現しています。セラは、彫刻が単独で存在するのではなく、その場所や風景と結びつくことで、初めて完成されると考えています。この作品は、アイスランドの壮大な自然と調和しながらも、その存在感を強調するものであり、観客が歩き、見ることで風景の一部として体験されます。

セラのアプローチは、自然と人間の関係を再定義し、アートがどのようにして空間や環境と結びつくかを探求するものであり、観客に新たな視点を提供します。

まとめ

flickerより

リチャード・セラの「Áfangar」は、アイスランドの自然環境との深い対話を通じて、観客に新たな体験を提供する作品です。

セラが風景をどのように捉え、作品に反映させたかを理解することで、この作品が持つ深い意義をより一層感じ取ることができるでしょう。「Áfangar」は、彫刻と風景の融合、そして観客との対話を重視したリチャード・セラの芸術的探求の結晶であり、自然の中でアートを体験する新しい方法を示しています。


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すぎた こうき|アーティスト、書道家
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