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Lee Bae: 炭の芸術と黒の詩情

現在、杉田は「茶の湯炭」を扱ったアートワークの制作に取り組んでいます。書道とアートの両面から「茶の湯炭」を通して見えてくる日本文化の文脈を捉えてつつ、文化の狭間を表現しようと考えています。

そこで、同じように木炭を扱うアーティストで、韓国やフランスを拠点に世界的に活躍されているLee Baeに注目。(ペロタンギャラリー取扱アーティスト)

Lee Baeについて

公式サイト
https://www.leebae.art/

ペロタンギャラリー
https://www.perrotin.com/artists/Bae_Lee/

インスタグラム

https://www.instagram.com/studioleebae/

https://www.instagram.com/leebae.art/


もの派の李禹煥さんの元で10年間アシスタントをしています。

元々、好きなアーティストの一人でしたが、海外のインタビュー記事をベースに彼の探求を文章化していきました。

参考にしたインタビュー記事



自分の研究用のアーカイブですので、認識が間違っている部分もある可能性がありますが、ご了承ください。

はじめに:炭の静かな力

Lee Bae / Tokyo Gendai

現代アートの世界において、素材としての炭ほどアーティストに独自の影響を与えたものは多くありません。韓国生まれのアーティスト、Lee Baeは、フランスで活動しながら20年以上にわたり、この自然素材の深層を探求し続けています。炭は、一見すると謙虚で控えめな素材に思えますが、Baeの手にかかると、対比とエネルギー、そして哲学的な意味が現れるのです。彼の作品を通じて、私たちは炭そのものと、炭が持つ意味を再考する機会を与えられます。

炭との出会い:素材から生まれる芸術

Lee Baeの炭との出会いは偶然のものでした。1990年代にフランスに渡った彼は、手頃な価格で手に入る素材を探していました。そこで炭という素材が彼にとって啓示のように現れました。炭は単なる絵画の材料としてだけでなく、韓国の自然との深いつながりや、伝統的な中国の墨をも連想させるものだったのです。炭はその強さ、コントラスト、そして密度といった特性を備えながらも、粉になると軽やかさを持つという二面性を持っています。この多面的な性質が、Baeにとっては無限の表現の場を提供しました。

創作のプロセス:一つ一つに込められた儀式のような時間

Baeの制作プロセスは非常に丁寧であり、一つの作品を完成させるまでに1〜2ヶ月を要します。この時間をかけた作業は、彼の哲学において欠かせない要素であり、まるで儀式のように細心の注意を払いながら進められます。炭の選定からキャンバスの準備まで、どの段階においても偶然に頼ることはありません。まず、彼は描くモチーフの精密な下絵を作成します。この時点で、Baeの手の動きは一切の逸脱を許さず、彼の優雅さは完璧なバランスの中に宿ります。彼の詩情は熟慮された簡素さにあり、そのエネルギーは制御された動きに存在します。

キャンバスの奥行き:平坦な表面から生まれる深み

Baeの作品にはもう一つの驚きがあります。それは、作品のキャンバスが一見平らな表面でありながら、視覚的には奥行きや透明感が感じられることです。彼は、アクリルを何層にも重ねて塗る技法を使い、この効果を生み出します。最初に塗られるのはクリーミーな白いアクリルで、乾くと透明でワックス状になり、照明の具合によって卵殻のような色味を持つこともあります。この下地が生き生きとした背景を作り出し、黒のモチーフの力強さと多様性を際立たせています。

実験への探究心:炭の可能性を引き出す

Baeが語るところによれば、彼が最も興味を持っているのは、絶え間ない実験を通して炭という素材の特性を変化させ、その新たな側面を引き出すことです。彼の作品はその試行錯誤の結果であり、炭が持つエネルギーやコントラストが、驚くべき形で表現されています。

ある日、彼が15年前に制作した完全に黒一色の作品を見せてくれました。この作品は、炭をモザイク状に配置したもので、光があたると銀色の雲母の粒が輝きます。このような作品は、パリのギメ美術館で展示された「Carte Blanche à Lee Bae」展においても鑑賞することができ、現在は美術館の永久コレクションにも加えられています。

彫刻としての炭:絵画と立体の間に存在する美

Baeの炭に対する探究は、彫刻の形にまで広がっています。彼は、ギメ美術館で展示された炭の塊を束ねたインスタレーションを制作しました。この彫刻作品は、彼の絵画における詩的な曲線に対して、力強さを感じさせます。炭を使った彫刻は、彼の絵画に見られるような繊細な美しさとはまた異なる、原始的で荒々しい力を表現しています。

韓国からフランスへ:文化の狭間で生まれる芸術

Lee Baeは、韓国で生まれ育ち、母国で芸術の道を歩み始めました。意外にも彼の初期の作品は非常にカラフルでしたが、1990年にフランスに移住し、そこで炭という素材と出会いました。彼は、同じ韓国出身の著名なアーティスト、李禹煥(Lee Ufan)のアトリエで10年間修行し、その後、彼自身のスタイルを確立していきました。

彼の作品は、韓国とフランスという二つの文化の間に生まれたものであり、東洋と西洋の美学の融合を体現しています。彼の作品がフランスで広く評価されるようになったのは、サン=テティエンヌ近代美術館での回顧展や、フェルネ=ブランカ財団での展示がきっかけです。そして2015年には、パリのギメ美術館やセルヌスキ美術館での展示が行われ、フランスの美術界での彼の地位が確立されました。

未来への展望:韓国とフランス、二つの国での活動

Lee Baeの作品は、フランスだけでなく、彼の母国である韓国でも高く評価されています。2014年には、韓国の大邱現代美術館で個展が開催され、彼の作品は韓国政府によっても注目されました。彼は現在、韓国の鬱陵島に大きな家とアトリエを与えられ、今後も多くの作品を生み出していく予定です。

おわりに:炭という素材を超えた美しさ

Lee Baeは、炭という素材に詩的な命を吹き込み、その黒の美しさを芸術の域にまで高めたアーティストです。彼の作品は、単なる物質的な表現を超え、文化や哲学、自然とのつながりを探求するものです。炭というシンプルな素材を通して、彼は人々に深い感動を与え、私たちに新たな視点を提供し続けています。

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すぎた こうき|アーティスト、書道家
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