「もの派」を振り返る(論文読)
「もの派を振り返る (英名:Remembering MONO-HA)」、2011年に書かれたJ Jack氏の著作物や、他の論文を元に、「もの派」についての理解を深める。
thesis : Remembering MONO-HA
https://scholarspace.manoa.hawaii.edu/bitstreams/dac1f804-29a7-4994-aa73-ed938d3cbd76/download
もの派とは? – アートの本質を問いかける日本の芸術運動
1960年代から1970年代にかけて、日本の現代美術界で「もの派」と呼ばれる新たな芸術運動が生まれました。もの派は、自然や工業製品といった素材(=モノ)をそのまま使い、その存在感と空間との関係を探求することを目的とした運動です。この記事では、もの派の背景や特徴、そしてその魅力について、分かりやすく解説していきます。
1. もの派とは?
もの派は、1960年代末から1970年代にかけて、日本で活躍したアーティストたちによる芸術運動です。「もの」とは、日本語で「物質」や「物体」を指す言葉で、もの派の作品には石、鉄、木、水といった自然素材や日常的な物がよく使われます。これらの「モノ」をアーティストが作品の中心に据え、素材の特性や空間との関係性を表現しました。
もの派のアーティストたちは、絵を描いたり、彫刻を作ったりするのではなく、素材そのものを提示し、それを通して「存在」や「空間」といった哲学的なテーマに取り組んでいました。彼らの作品は、見る人に物質そのものが持つ意味や、それを取り巻く空間との関係について考えさせるような仕掛けが多く見られます。
2. もの派の背景
1960年代から70年代にかけて、日本は急速に工業化が進みました。この時代、アートもそれに伴い大きく変わっていきました。もの派のアーティストたちは、工業製品や自然素材をそのまま使うことで、現代社会の中で物質が持つ意味や存在感を問い直そうとしました。彼らは、既存の美術の枠にとらわれることなく、素材そのものの力強さや空間との関わり方を新たに探求したのです。
また、もの派は、日本の伝統的な美意識とも深く関わっています。日本の美術では、古くから自然と人間、物質と空間の調和が重視されてきました。もの派の作品は、そうした伝統的な美意識を現代に引き継ぎ、アーティストが素材と空間の対話を通じて新たな美しさを生み出しています。
3. もの派の作品とその特徴
もの派の作品は、素材そのものが中心です。アーティストは、物を加工して新たな形を作るのではなく、その物が持つ自然な形や特性をそのまま生かして作品を作ります。例えば、李禹煥(リ・ウファン)の作品では、石や鉄板がただその場に置かれるだけですが、その素材が持つ存在感や、周囲の空間との調和が強く感じられるように構成されています。
また、関根伸夫の「位相 – 大地」と呼ばれる作品では、大きな円形の窪地が掘られ、その土の塊が展示されることで、土地と空間の関係が示されています。作品自体は非常にシンプルですが、素材そのものと空間の関係を深く考えさせる構造になっています。
これらの作品の特徴は、物質そのものに対する敬意と、それを取り巻く空間の重要性を強調する点にあります。もの派のアーティストたちは、素材が持つ本来の特性を生かし、その物質が空間とどのように共存するかを観察し、作品を通じてその対話を示しています。
4. もの派と「空虚」
もの派の作品で重要なテーマの一つに「空虚」という概念があります。これは、空間の中に何もないことが強調される状態を指します。空虚は「無」としてではなく、その中に存在する物質を引き立てる重要な要素とされています。
例えば、李禹煥の作品では、物質が存在することによって空虚が生まれ、その空虚が物質の存在感をより強く引き立てます。何もない空間があるからこそ、そこに置かれた物質が際立ち、観る者に強い印象を与えるのです。この「空虚」の概念は、日本の美意識の一つでもあり、茶道や庭園などにも見られる伝統的な考え方と共通しています。
5. もの派の魅力とは?
もの派の作品が持つ最大の魅力は、そのシンプルさと深さです。
見た目はシンプルでありながら、その背後には素材や空間に対する深い洞察が含まれており、観る者に多くの考察を促します。もの派のアーティストたちは、素材を加工するのではなく、そのまま提示することで、観る者が素材そのものの存在感を感じ、作品と対話する機会を提供しているのです。
また、もの派の作品は、静かでありながら強い力を持っています。自然素材や工業製品といった日常的な「モノ」を使うことで、私たちが普段見過ごしているものに新たな視点を与え、物質と空間の関係について考えさせます。こうした考え方は、現代社会においても普遍的なテーマであり、もの派の作品は時代を超えて私たちに深いメッセージを伝えてくれます。
6. もの派の国際的な影響
もの派は、日本国内だけでなく、世界中のアーティストや美術評論家に影響を与えました。特に、イタリアの「アルテ・ポーヴェラ」やアメリカの「ミニマルアート」との共通点が指摘され、もの派は国際的な芸術運動の一環として評価されています。
もの派のシンプルな表現や、素材そのものを尊重する姿勢は、現代アートの中でも独自の位置を占めています。現在でも、もの派の影響を受けたアーティストたちが、素材や空間との対話を通じて新しい作品を生み出しています。
7. 結論 – もの派のアートが私たちに教えてくれること
もの派のアートは、物質そのものが持つ力と、それを取り巻く空間との関係を見直すきっかけを与えてくれます。現代社会では、私たちは日常の中で多くの物質や空間に囲まれていますが、その中で見過ごされているものも多くあります。もの派の作品は、そんな物質と空間に改めて目を向け、それらが持つ本来の意味や価値を考えるきっかけを与えてくれます。
もの派の作品を鑑賞することで、私たちはただ視覚的に美しいものを見るだけでなく、物質の存在感やその背後にある空間との対話を楽しむことができます。アートに詳しくない人でも、もの派の作品に触れることで、日常の中に潜む美しさや意味を発見する喜びを感じられるでしょう。
もの派のアーティスト
吉田克朗
関根伸夫
李禹煥 Lee Ufan
成田 克彦
菅 木志雄 Kishio Suga
小清水 漸 Susumu Koshimizu
榎倉 康二
高山 登
原口 典之
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