#114 大豆の収穫
立冬は過ぎたが晴れて暖かい日が続いていた。私は、トラクターで田を鋤いていた。この秋2回目になる秋起こしだった。近所の鈴木さんが、今日も大豆の収穫に来ていた。収穫した大豆は、まとめて束にして結わえてあった。
この畑は、収穫後トラクターで鋤いて、知り合いの人に売却するようだった。この畑も元は田んぼだった。米あまりの時に、減反政策で休耕田となった。その後、畑作として大豆を作っていた。鈴木さんは、畑作は手間がかかると言いながら丁寧に作業する人だった。土地を手放すことについては、「80歳になって、農業を続けることはしんどくなった。昔のように、体が動かない。農業に熱心な人に譲ることができてよかった。」と明るく言った。私は、「そうですか。」と答えただけだった。
家に帰った私は考えてしまった。年をとったので、農作業することはしんどいことはよくわかるが、農地を手放すことなのに・・・。その、鈴木さんが明るくきっぱりと言ったことに、私は気になっていた。
幼少のころから、私たちの世代の人は、「農地は先祖さまからの預かりもの。」と親から聞かされた。「土地は、手放すな。」とも言われた。私なら、土地を他人に譲ることには、寂しさを感じるのだが・・・。
次の日になって、鈴木さんの明るさは、「農業に熱心な人に譲ることができたこと」に起因すると思えてきた。年のせいで、農地を手放すさびしさより、自分の土地が、農業に熱心な人に譲ることによって、もっと豊かに実る土地になるとを考えたのだろう。土地の売却でなく、農地を引き継ぐことができたことに安心したのだろう。安心して次の人に土地を引き継ぐことができた鈴木さんを、私はうらやましく思った。 @地域 6
#ふるさとを語ろう #この街がすき