苔丸

田舎の片隅でひっそりと生きています。 ゲーム実況投稿中。それにまつわる文章を投稿する予定。 ニコニコ : https://www.nicovideo.jp/mylist/67428803

苔丸

田舎の片隅でひっそりと生きています。 ゲーム実況投稿中。それにまつわる文章を投稿する予定。 ニコニコ : https://www.nicovideo.jp/mylist/67428803

最近の記事

ボクと魔王とボトルメール

 部屋に入り、戸を閉め切ると、部屋に普段とは違った香りがする。独特な匂い、私の知らない匂い。お母様の介助を断って一人で階段を上がり、そのせいで切れた息を整えるべく深呼吸をする。鼻腔に、肺に、青が満ちていくような気がする。本の中でしか見たことのない美しい湖上の村、リシェロが瞼の裏に浮かぶ気がした。  点滴でいくらか和らいだものの、身体はまだ思うように動かない。それでもベッドに戻る前に、机の上の瓶を手に取った。私が閉めた時よりも強く閉められた蓋、それに少し苦戦しながらやっとの思い

    • 「ボクと魔王とパン屋さん」

      「パンと人生って似てると思うんだよね」  昔、夫に向かって言ったそんな言葉を思い出していた。私たちがまだ若く、パン作りの腕もずっと未熟だった頃の話だ。テネルでは唯一のパン屋なのでお客は来てくれていたし、みんな美味しいと言って買ってくれている。 それでも、時々失敗をした。生地は思うようにならないし、石窯はまだ使いこなせているとは言い難い。どうすれば理想的なパンが作れるのか、毎日二人で考えている最中に出た言葉だった。 小麦粉、卵、酵母。材料からこだわって、生地を練り上げる。それ