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隔たり

 隔世遺伝という言葉を知ったその日、なるほど、と思った。色々なことに合点がいきはじめた。脳を駆け巡ったのは、問題を解決した時の爽快感よりもむしろ、何か仄暗いものだった。この時、一つのジグソーパズルが完成したが、はじめから酷く歪な画だったみたいだ。
 僕が、その隔たりだ。そう、思えば、納得が、いった。そう考えることをやめられなくなってしまった。年の暮れに一族が集まったあの席で、祖父が誰かを評して言ったその言葉が、ずっとこびりついている。

 父親の同級生に随分出世をした人がいたらしい。貧乏なその両親の作る家庭環境は、それは劣悪だったとか。鳶が鷹を生むの代表例だな、と誰かが言った。あの家は昔は名家だったらしいから隔世遺伝なんだろうね、と誰かが応じた。祖父が不意にこちらを見て笑った。うちの家は鷹の家だからな、お前も頑張るんだぞ。一同が僕を見て微笑んだり、何か言ったりしたが、鷹の群れに見つめられた僕は曖昧に笑うのが精一杯だった。両親が同じように曖昧な笑みを浮かべているのが、見ないでも分かったから。

 毎日、学校が終わり、塾に行く前にホームセンターのペットコーナーに寄る。血統書付きの猫がいて、そいつだけは値札の桁数が随分違っていた。そのショーケースの前に立つと、今日はこちらに顔を向けて近づいてきた。入り浸っているせいで顔馴染みになった店員が、とうとう気にいられたんじゃない、と笑いながら声をかけてきた。僕は少し笑いながら、猫に向き直る。
 なあ、僕はいつかお前を殺してしまうかもしれない、だからその場所代わってくれないか。胸まであがってきた胃酸と一緒に、その言葉を飲み下ろした。

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木村敦
本、映画、音楽など、数々の先達への授業料とし、芸の肥やしといたします。