虚言癖倶楽部 1/7観劇
劇場は不思議な雰囲気に包まれていた。
格好も、年齢も、性別も、さまざまな人が集まって。
この場所はそれこそ何らかの「倶楽部」のようだ。
普段出会わない私達がこれから一緒に演劇を鑑賞する。不思議だ。
初心者の私はぐるりと周りを見渡した。
床にはアタリが貼られている。
キャストの椅子にはスポットライトが寸分のズレなく当てられて、光り輝いている。
とても近くにいるのに、そこだけがまるで別世界のようだ。
私達は傍観者だ、それでいながら、同じ世界に迷い込んだのだ。
開演30分前、
劇場の空気を楽しむためか、世界と溶け合うためか、電車で見渡せば8割を占めるかもしれない、スマホを操作している人は少ない。
どのぐらい前に劇場に入るべきか分からなくて、私にもたっぷりライトの配置やら、スポットライトに照らされて輝くダストを観察する時間があった。
少しずつ人が増えていく。
開演15分前、
アナウンスが流れた。
このご時世、注意事項が多くてアナウンスも気を遣われることだろうと思う。でも、なによりも、こうやって開催されたことが有り難い。
気が付くと周りの席もほとんどが埋まっていた。
開催5分前、
再度のアナウンス。
私達はオペラグラスを翳すように、フェイスシールドを被った。
そして、舞台は始まった。
そこに残ったのは、不思議な余韻。
私は確かに舞台を観ていた。しかし同時に、名も無き登場人物にもなっていたのかもしれない。
良い舞台だったとか、感動したとか、そんな言葉では言い表せない、考え込んでしまうような気持ち。
これこそ、惹き込まれたということか。
言い表せないことを承知の上で言葉にするなら、重厚で濃密な時間だった。
誰かの人生を覗き見たような、自分の今とは違う姿を目撃したような、
それは啓示か、
それは警告か、
それは娯楽か。
素晴らしい時間をありがとうございました。