ブラックホールはオバQではなかった?
変なタイトルですが、身近で遠い天文学の人気者ブラックホールについて、興味深い仮説が唱えられています。
ようは、
従来3種類しか情報を持たないとされていたブラックホールに4番目の「渦度」を持つ可能性がある、
という話です。
そもそも3種類しかない、というところから引っかかると思うので、そこから補足しておきます。
ブラックホールは1967年にジョン・ホイーラーという物理学者によって名付けられました。(厳密には他の方が名付けたのを広めたのが定説)
名付け親だけでなく、ブラックホールの研究者としても第一人者で、この方が唱えた1つが「ブラックホール無毛定理」と呼ばれるものです。
我々人間であれば、いろんな情報を持ちます。例えば体重・身長・性別といった類のものです。
それに比べてブラックホールは、質量・電荷・回転量の3つしか持たないため、あまりに情報が少ないので「無毛定理(No-hair theorem)」とホイーラーが名付けました。
念のためですが、ちゃんとした学術的な用語として使われています。学生の時は、ふざけて同じく3本の毛にあやかって「オバQ定理」と呼んでいたのを思い出します。
そんなオバQ定理は、他の定理同様仮定のもとで作られた仮説です。
それは、マクスウェルが完成させた電磁気学と、アインシュタインが独力で考案した一般相対性理論です。
今回の4つ目の毛は、「渦度」という耳慣れない情報ですが、この仮定をやや拡張します。
それは、統計を活用した「熱力学」の理論、そしてミクロの世界でのみ通用する不思議な理論「量子力学」を組み込んだことです。
「熱力学」はミクロな分子の集合的なふるまいを統計的に記述する理論ですが(やや荒っぽい定義)、何もかも吸い込むブラックホールにしては意外なことに、量子力学の効果を考慮すると熱放射(エネルギー放射)と同じ現象が生じ、これを「ブラックホールの蒸発」と呼びます。
つまり、いくつかはブラックホールも蒸発して消滅する、というわけです。(超が何個もつく未来ですが)
もう1つ、今回の説で前提となる量子力学と統計力学を合わせた奇妙な理論が「ボース・アインシュタイン凝縮」と呼ばれる現象です。
名前の通り、アインシュタインが1920年代から予言していた現象で、超ざっくりいうと、ある条件下で1つ1つの原子が一斉に同じ方向を向く不思議な現象です。(小学校の朝礼でバラバラな生徒たちに先生が「整列」と怒鳴るイメージ)
そしてこの理論を受け入れると、一斉に並んだ原子たちが「量子渦(りょうしうず)」といううねりを引き起こすことも知られています。リニアモーターカーで使われる超電導の世界で使われます。
今回の仮説は、この量子渦が、量子重力理論で有力視されている「重力子」の存在でブラックホールにも適用できるよ、ということです。
量子重力理論は、量子力学と一般相対性理論を統合した未完成の究極理論です。そのなかで、他の3つの力同様に「力」を生む媒体が「重力子」という未検証の素粒子です。
このように、諸理論を組み合わせると、ブラックホールは熱放射する通常の物質に例えることが出来、そのミクロな世界観で量子渦に相当する情報を持つことが理論上可能、ということです。
なかなか難解な話で一晩寝たら忘れそうな理屈ですが、一番知っておきたいのがその意義です。
相当端折って書きますが、この渦度を導入すると、ダークマター計測に貢献できるかもしれない、ということです。
ダークマターとは、宇宙の引力構造を調べた結果、存在するとされる仮想の物質です。
過去にブラックホール含む未発見の天体であろう、と推測された時期もありましたが、今では超ミクロな素粒子群の説が有効です。
過去にも何度かこの話題をふれましたが、直近のものだけ引用しておきます。
今回導入されたブラックホールの渦度を計測することで、間接的にその存在を証明することが出来ます。
今回は、いくつかの難解な理論の上で築かれた仮説ですが、少なくともこれで「オバQ理論」と学生に茶化される確率は減りそうです☺