「量子のもつれ」ばなし1
以前にブレークスルー賞2023内容の流れで量子暗号を使った通信について触れました。
既に量子通信は、実用化に向けて一部の国々で研究が続けられ、宇宙通信とも絡めた応用も検討されています。
これらはすべて「量子力学」の性質を使ったものですが、その歴史はある意味もつれたまま今に至ります。
ようは、その根っこにある現象は常識的には腹落ちできないけれど、実験ではうまくいっているので実用を重視して進もう、というイメージです。
その現象の理解に亡くなるまで抗ったのがアインシュタインです。他にも、過去に投稿したノーベル賞受賞者ペンローズ氏も同じです。
量子力学の分野ではいくつか名言があり、なかでもアインシュタインが論敵に宛てた手紙で使った、
「神はサイコロをふらない」
という言い回しは有名です。
他にも、ノーベル賞受賞者ファインマンによる
「量子力学を理解している人なんていないと言っていいだろう」
という言葉もよくキャッチーなので取り上げられます。(ただ、こちらは口頭らしいので、前後文脈はもう少ししりたいところですが・・・)
そんな奇妙な量子力学の中でも、今通信分野で期待されている「量子もつれ」に絞ってその歴史を触れていこうと思います。
量子力学の貢献者は?
相対性理論を打ち立てたのはアインシュタイン一人を挙げれば事足ります。それだけアインシュタインの貢献は際立っていたということです。
では、「量子力学の貢献者は?」と聞くと、なかなか意見が一致するのは難しいかもしれません。多くの天才が積み上げた積木のようなイメージです。
ただ、私個人の主観でいえば「ニールス・ボーア」氏を筆頭に挙げます。
きっかけは、ボーア氏の師匠にあたるラザフォード氏が提唱した原子モデルの問題点(要は電子が単に原子核を円軌道するだけではエネルギーを失っていつかは核に落ち込んでしまう)を克服するためにボーアが打ち立てた修正仮説です。
ボーアは、
「電子は離散的なエネルギー状態をとり、そこではエネルギーを失わない」というモデルを提唱しました。
細かく言えば、彼の独創というよりも、それ以前にプランクが提唱していた量子仮説を応用したものです。
ただ、「ではなぜエネルギーを失わないでいられるのか?」という問いには答えることが出来ませんでした。
それに対して別の角度から救世主が現れます。
アインシュタインがノーベル賞を受賞したのは、相対性理論でなく「光量子効果」によるものです。
それまでは光は「波」であるという説が有効だったのですが、粒子の性質も持つことを提唱しました。
そこに、ド・ブロイ氏という科学者が登場します。
アインシュタインの仮説をさらに拡張して、
「電子などほかの粒子も逆に波の性質も持つのでは?」
という大胆な仮説を提示し、それを「物質波」と名付けました。
嬉しいことに、この仮説によってボーアの残課題を説明することが出来ました。(超シンプルにいうと波はエネルギーを失わないから、です)
ここでの重要なポイントは、それまで「粒子」か「波」か、という二元論で議論していたものを包んだことです。
アインシュタインはこの考えを称賛し、ついに電子の波動性を示す実験結果を、ジョージ・トムソン氏が実現して風向きが変わりました。1927年のことです。
余談ですが、トムソン氏の父親は、(粒子としての)電子を発見した科学者としても知られています。つまり、親子にわたって電子の粒子性と波動性を証明したことになります。
これらの貢献によって、光や電子は「粒子」と「波」という二重性質を持つという考え方が徐々に浸透していきました。
ただ、それは従来の物理の枠組み(パラダイム)を超えるチャレンジの始まりともいえます。
次回は、もつれていく量子論争について触れていきたいと思います。