神経科学で「アート」を分析する
前回、最新AIでベートーベン未完の大作を完成させた話をしました。
アート(芸術)は科学の対極と思う人もいるかもしれませんが、なかには科学的な取り組みがあります。
そもそもアーティストの中には、レオナルド・ダヴィンチをはじめとして自然科学の方法を好む方もいます。
作り手が手段として自然科学を意識したとしても、受け手からみると、やはり感性で評価する、と見るのが一般的です。
象徴的なのは、現代アートの奇才バンクシーです。
2018年に約2.7億円で落札されたバンクシーの絵画が、直後にシュレッダーで裁断された珍事がありました。結構報道されたので覚えている方は多いと思います。
落札者は大損・・・と思うかもしれませんが、その3年後に裁断された絵画を再オークションにかけたところ、なんと約28億円の最高値が付きました。
結局は、受け手が対象作品にどのような価値をつけるかによるという分かりやすい事例です。
短期間しか咲かない桜をはかなくて美しいと感じる感性にもつながる気がします。
但し、そう感じる人もいる、というだけで、冷静に言ってしまえば人にもよってきます。
こう書くとなおさら自然科学から離れていきそうですが、そういった感性を科学的に解明しようとする科学者もいます。
著者の川畑教授はアートを見た時の美しさを脳科学の視点で解明しようとしています。
その中で、「眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)」という脳内の個所がアートを美しいと感じるときに反応することをfMRIを使って突きとめました。公開されている資料から下図に引用します。
この箇所は、快楽にも関係するドーパミンがよく分泌されるところです。
そして、これはアート作品(絵画・音楽・彫刻・ダンス・建築物)だけでなく、数学の式を見て「美しい」と感じた時も共通です。
上記資料内では、逆に前頭葉の活動を電気刺激(tDCS:経頭蓋直電流刺激法)を使って活動を抑制すると「美」を感じにくくなりました。
ざっくりいうと、やはり「美」を感じる機構は、脳の化学的な処理に還元出来そうです。
上記公開資料の後続では、アートで幸福(Well-Being)につなげられるとポジティブにうけとめており、実際に病院にアート作品を活用することで療養にもつなげていこうという話はよく聞きます。
しかしながら、今回分かった脳内該当箇所が反応するかは、穿ってみると結果を見ないと分からない、つまり事前にそれが美しいかどうかを予想することは難しい、とも言えそうです。(要は学術研究としては分かるけど実用性はないのでは?ということです)
これは、これからの脳科学領域における実用化によっては化けそうです。
例えば大手消費財メーカでは、ニューロマーケティングという脳波で被験者の感想を可視化する試みが行われています。
今後、その人の反応パターンをAIで解析することで、好みに応じてパーソナライズされたAI作品が登場するかもしれませんね。