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AIが暴いた脳内ダンス:視床下部が食欲をどうコントロールするのか?

以前に「肥満」を抑える薬の開発について紹介しました。

今回は、別の切り口で肥満や摂食障害、つまり食事をコントロールする研究成果を紹介します。

ようは、
脳がどのように食事をコントロールしているのかをある程度解明した、という話です。

おおざっぱに言えば、食欲など我々の原始的な感情・欲求は脳がコントロールしています。その中でも中核の役割を担うのは、視床下部と呼ばれる場所です。

ここの中継機能がどのようなプロセスで制御するのかが今回の研究成果です。

まず従来分かっていたのは、脳は血糖値や空腹度などの情報を身体から絶えず受け取り、そのデータを基にいつ食事を摂るべきかを判断します。

その判断プロセスは今まで分かっていませんでした。

今回、実験動物(マウス)の視床下部を構成する神経細胞(ニューロン)をAIで解析したところ、役割毎にグループで発火活動することが新たに分かりました。

AIが登場するのはもはや驚かなくなりました。念のため補足すると、今回のアルゴリズムは、「スペクトルクラスタリング」と呼ばれる技法です。とっつきにくい名前ですが、これは今はやりの深層学習ではなく統計解析で使われてきた手法です。興味ある方のために、詳しく説明したサイトを紹介しておきます。

AIで役割毎に集団的に動くニューロン群が特定されました。具体的には、空腹から満腹につながる過程ごとに分かれており下記の順番です。
・血糖値の調節
・空腹ホルモンの調節
・胃の満腹感

興味深いのは、上記毎のグループ内の神経細胞は、共鳴しているかのように同じ周波数で発火していることが分かりました。さながら同じ歌を歌いながら仲良く活動している学校の生徒のようです。

この活動は治療に応用できる可能性を秘めています。

逆に言えば、このような同調活動を各神経細胞に外部制御することが出来れば、食欲をコントロールできるということです。

そんなことが出来るのか?

実は既に神経細胞をコントロールする技術は確立されており、「光遺伝子技術」と呼ばれます。光をあてることで発火を誘発することが出来ますが、その秘訣は、光に反応する遺伝子を埋め込む技術にあります。詳細が気になる方のために、過去記事を載せておきます。

余談ですが、光で特定の神経細胞をコントロールして認知症を改善するという研究成果も以前紹介しました。これは光遺伝子技術とは別です。

いずれにしても、これで摂食障害や重度の肥満患者を治療できる可能性が出てきました。

そして今回見つかった神経細胞グループ単位での不思議なリズム現象は他の脳部位でも起こっているかもしれません。

解析技術が高まったことで、徐々に脳内で起こるダイナミクスが見えてきました。想像以上に脳の劇場では日々神経細胞同士のダンスが繰り広げられているようですね。

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