エルゴードという魅惑の物理美術館
「エルゴード」というなんとなく独特な響きを持つ言葉は、物理学の世界で使われます。
いくつか文脈によって意味合いが変わります。ミクロな分子の動きをマクロ的に理論化する熱・統計力学の世界が今回のテーマです。
エルゴード的、というのは「ある閉じた場において、長期間待っているとその物理量(温度やエネルギーなど)が全体的にならされていく」というものです。
格好よくいえば時間平均と空間平均が一致する状態になっていきます。
1つ解説サイトを引用しておきます。
通常は、物理現象はエルゴード的にふるまいます。
ただ、なかには例外があり、最近発表された記事がまさにこのテーマです。
ようは、
C60を回転させると、エルゴード性が破壊され新たな素材に活用できるかもしれない、
という話です。
C60は、炭素原子が60個立体的に接合されたサッカーボール状の物質です。
エルゴード的であるならば、たとえ回転を速くしても、長時間まてばその動きは全体としては同じような値に落ち着くはずです。
が、今回は最新の計測器具によって、回転を速めて3.2GHzまで(1秒で17億回転ぐらい)にすると、エルゴード性が壊れることを発見しました。
しかも、さらに4.5GHzまであげるとまたエルゴード的に戻るという不思議な挙動です。
その謎ですが、たとえ話を用いており、レーシングカーのタイヤが速く回転するとより膨らむ、のと似ているとのことです。(分かったようなより謎が膨らんだような・・・)
もう少しだけ記事の内容に触れると、この3.2〰4.5GHz帯では、ミクロの世界にだけ通用する量子力学がそういった不思議な状態をつくりあげるのだろう、という書き方になってます。
これをもう少し好意的に発展させると、ミクロな世界でこの挙動を人工的に制御することで、いわゆるナノテクロジー(またはナノマテリアル)での活用が期待されます。
繰り返しですが、エルゴード的でないということはエネルギーなど物理量が永久的に偏った状態で、それを意図的に制御することで、独特な大きさ・剛性・磁性を持った材料の開発につながりそうです。
調べると、こういった量子力学を人工的に制御することを「メゾスコピック」と呼ぶそうです。要はマクロとミクロ(原子レベル)の中間ぐらいの意味合いだそうです。
1つだけそれを研究しているグループのサイトを引用しておきます。
と、いろんな非日常的な呼び名が登場しますが、個人的にはよくわからない言葉は美術鑑賞的に好きだったりします。
特に今回の「エルゴード的」は結構謎が潜みがちなテーマなので、これからもこの不思議な堂を愛でたいと思います。