《第10回SCCしずおかコピー大賞 独りごと反省会。》 vol.28
課題3:社会貢献したくなるコピー
・バレてもいい裏の顔。
顔って何だろう。パーツとしての顔もあれば、地位や権力を顔と表現することもある。「顔を上げる」と言ったときは、動作を伝えるだけでなく、気持ちの前向きさを表現するときだってある。
そんな『顔』というコトバが横たわる一文には、情緒的な価値の匂いが立ち込めている。
『バレてもいい』というのは、曝け出すときにも使うが、この場合は「誰かに感ずかれても恥ずかしくない」という程度の話だろう。大げさな入り方の割に腰は砕けた気もする。
『裏の顔』も曝け出さない方のことを指し、非合法的な匂いを発するキーワードだ。
これがドラマなら、街の顔役で表の顔は実業家、裏の顔はマフィアのゴッドファーザーという、ドン・コルリオーネよろしくの件があったりする。
今回は所詮「社会貢献したくなるコピー」の話。言い方は大げさでも、中身は大したことではない。
だが、こういう漫才のネタにある「ボケ」のようなミスマッチは広告の常套手段。思い切ったギャップをつくることで、本件に連なる架空のそれでいて本当のようなストーリーが生まれることもある。
このコピーそのものは、個人的にはあまり好きではないし、現実の広告では使いにくい部類に入る。つまりは、非現実な領域も許されるコンテスト向きな書き方になっている。
良い行いは、そもそも大手を振って取り組んで欲しい。だからこその課題でもある。課題が求めるコンセプトを考えれば、仕事として提出するアイデアなら「捨て案」に入るだろう。珍しいし目立ちそう。いかがでしょうか? といった具合だし、場合によっては本命コピーを引き立てるために提出する捨て案なのかもしれない。
このことからも、本課題からこのアイデアを考える人は少ないはずだ。応募された数百のコピーと比べても、似たものがなければ目立つ。目立つコピーは頭か心にフックし、「もしかしたらアリなのかも⁉︎」の検証のために票が入り残ったのではないかと考えられる。
今回、ファイナル以上に行かなかったということは、この課題のコピー表現としては、まだ多数に承認されるレベルになかったということになるだろう。リトマス試験紙によるテストの場のように、本コンテストが機能した例ではないかと思う。
必要なのは、表現の挑戦。
名コピー『おいしい生活』(糸井重里/西武百貨店 1983)は、食べ物の味の表現として使う「おいしい」というコトバを、生活の有り様を表現するコトバに変化させた。
当時、私は中学生だったこともあり、また静岡でノホホンと生きていたこともあり、このコピーによる時代の変化までは記憶にない。だが、いつのまにか「おいしい」というコトバを「棚からぼた餅」や「漁夫の利」のような、「狙ってないのにもたらされるプラスの幸運」の意味も込めて使うことが増えていった記憶はある。
それまでに存在してきたコトバであっても、組み合わせ方で新しい表現が生まれ、新しい意味も醸成されることがある。今回のコピー表現も挑戦と捉えれば、コンテストにふさわしい佇まいを成しているように見える。
応募は1課題2本まで。それであれば、1本は普段使わないコトバの組み合わせや表現が、世の中に許されるのかどうか試してみる。表現の挑戦の場として、ぜひしずおかコピー大賞を使ってみて欲しい。
テスト・マーケティングの地を代表するSCCメンバーと、あの岡本欣也さんや玉山貴康さんが審査をしてくれるのだ。コトバの限界と可能性に挑戦して、審査員をアッと言わせてみる⁉︎ そういう楽しみ方も、試してもらいたいと思います。
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