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《第10回SCCしずおかコピー大賞 独りごと反省会。》 vol.42
課題5:
気軽に、楽しく、カウンセリングを受けたくなるコピー
・少しこぼすだけでもOKです。
ここに「こぼす」というコトバがある。性質の違うもの、物質は器に非物質である気持ちは胸の内に留まることで、「こぼす」と表現される同じような性質のモノに変換されるようだ。コトバの上の錬金術。改めて、日本語というのは面白いと思った。
まず、辞書でコトバの確認をすると、
「こぼす」 【零す・溢す】
① 不注意から器を傾けたりして、中の液体・粉末・粒状の物を外に出してしまう。 「コーヒーを-・した」 「砂糖を-・す」 「球をミットから-・す」
② 容器内の液体や粉末などを外に出して捨てる。 「茶わんをすすいだ水を建水に-・す」
③ (涙などを)こらえ切れずに落とす。 「大粒の涙を-・す」 「よだれを-・しそうになる」
④ 不平・愚痴などを言う。ぼやく。 「愚痴を-・してばかりいる」
⑤ うれしさなどを表情に表す。 「思わず笑みを-・す」
⑥ すき間から外にはみ出るようにする。 「色々の衣ども-・し出でたる人の/枕草子 76」 〔「こぼれる」に対する他動詞〕
出典:三省堂 大辞林 第三版より
ということになる。
そうか。「こぼれる」というのは、ネガティブを扱うための表現だったのだ。「大粒の涙」「笑み」以外は、こぼれ出た時点で不要なものだったり、見苦しいものに変わっているように読める。
となると、このコピーの「こぼす」というのは、カウンセリングという課題を言い当てている、ということになる。
声を大にして言えないことこそ、ストレスからくる胸の内にたまる不平・不満などの心の汚れである。ならば、どこかに「こぼす」ことで、また溜め込めるだけの心の余裕ができるというものだ。
ただ、モノゴトには順序が必要で、いきなり知らない人に胸の内を「こぼす」ことは、羞恥心や信用度といったものが気になり、なかなかできないだろう。だからこそ、最初はお試しと言わんばかりの「少し」という形容詞が効いてくるのだ。
つまり、この「買い言葉(※)」として成り立つコピーは、患者と寄り添うカウンセラーの姿勢を表している。某女性タレントがよく使った「OK」というコトバも、容易さと親しみを込めて利用されているように読め、難しくないコトバ選びをした作者の努力が見えてくる。
このコピーも学生作品として秀作だと思います。ぜひ、来年もこのコトバを選ぶ目を使いながら、課題に挑戦してもらいたいと思います。
※買い言葉:買い手目線のコピーのこと。
詳しくは、岡本欣也著『「売り言葉」と「買い言葉」 心を動かすコピーの発想 (NHK出版新書)』を参照。
※コピーの版権・著作権等の使用に関する権利は、静岡コピーライターズクラブに帰属します。
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