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短編小説♯1 叶わない、かもしれない、願い

私は、夢の中にいた。そして目の前には彼がいる。

彼は会ったことない人だ。でもなぜだろう、心がすごく温かくなる。

「結婚してくれますか?」

彼から言われた突然の婚約。

ただ、迷うことはなかった。

「はい。こちらこそよろしくお願いします。」

彼の顔は笑みが溢れ、自分の拳をぐっと握った。

そして、その拳を解いて、私の頬に手を当てた。

この温もり、そして微かな震え。

本気で握っていたのだろう。そして緊張していたのだろう、震える手は私の頬を少しくすぐったい感触を襲う。

そして顔が少しずつ近づく。あっキスするんだろなと思って私は目を閉じた。

少し目を開けて顔を見ていたところで、おまじないは解けて、私の魔法は解けた。

おはよう現実。クソッタレ。

キスの感触ってどんなんなのだろう。

柔らかいのかな、カサカサなのかな、目は閉じるのかな、歯は当たるのかな。

そんな悶々とした気分で家を出る。

そして今日も一緒に朝練に行く彼と出会う。

「おはよう。こういちくん、今日は寒いね。」

「おはよ。確かにな、もう桜散ったのにな。ひろはどうなん?進路決めた?男子校に行くんだっけ?女の子いないの悲しくない?」

悲しくない。だって君がいるもの。

この気持ち、誰にもわかってくれないかもな。

でもいい。これが私(ぼく)の現実。

夢の中だけ、私は、シンデレラになれる。

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