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【≠ME『秘密インシデント』創作小説】「僕だけが思い出す虹」
「なんで虹を見つけて、僕に言ったんだろう…。」
時刻は22時を回った。
ベッドの上で寝る準備は済ませている。
しかしまだ、眠る気分にはなっていない。
絶対眠いはずなのに。
昨日は夜中までアマゾンプライムで映画を観てしまった。
途中までのはずが、見始めたら止まらなくなって、気付いたら午前一時を回っていた。
青春恋愛映画。男女それぞれ思い合っていて、思いを伝えたいのにすれ違ってしまう、とてももどかしく、切ない内容であった。
あまりにも良かったので、見終わった後は興奮して寝付けず、
きっと眠れたのは、5時くらいだっただろうか。
1時間しか眠ることができなかった。
なのに。そんな昨日の今日なのに。だめだ。
あの時虹を見つけたと言った彼女の顔が、頭から離れない。
あれは昼休みだった。
いつものように話相手が居ない僕は、窓際の席で一人、小説を読んでいた。
そんな時一瞬、ものすごい音を立てて雨が降った。
天気雨。
僕は開いていた窓をすかさず閉めた。
午後一発目の授業は体育だ。
今日は男女合同で短距離走と聞いていた。
体育が苦手な僕には憂鬱でしかない。
どうかこのまま雨が降り続いてくれと、微力ながらに願った。
窓を閉めた際に僕は、しおりを挟まずに小説を閉じてしまった。
こういう時、地味にショックだ。
ページを探すのに時間がかかるし、どこだったかと思ってページを先の方までめくってしまうと、ネタバレになる恐れもある。
慎重に、前の方からめくらざるを得ない。
この虚しい気持ちを誰かに伝えたいが、残念ながら相手はいない。
溜息をついた後、おとなしく小説を開き、前の方からページを探った。
その後、どれくらいだったか。
10分も経たずして、雨が止んだ。
本当に通り雨だったようだ。
僕はそれを確認した後、速やかに窓を開けた。
今度はしっかりとしおりを挟んで。
その時、大きな虹が目に入った。
とても大きな、7色の虹が、校庭の端から、見えない遠くの方までかかっていた。
中々こんな大きな虹は見ない。
太陽と雫の相性が良かったんだなぁと感心していた。
その時だった。
「すごい!!」
右の方から水色の声が聞こえた。
あまりにも近かったから、僕はびっくりして、声の鳴る方を見た。
そこには、虹を見る彼女の眩しい笑顔があった。
枠に手をかけ、前のめりに窓から顔を出す彼女。
風で少し前髪が崩れ、ポニーテールが靡いていた。
僕は、その眩しすぎる笑顔に、気付かないうちに見とれていた。
目が合った。
「ねぇ!」
「えっ。」
「見た?虹!」
「え、あぁ…。」
僕は一瞬、彼女を見つめていたことがバレたのかと思って肩を潜めたが、そうではなかったみたいだ。
彼女は、虹に夢中だった。
「めっちゃ綺麗だね…!私、こんなにきれいな虹見たの、生まれて初めてかも。」
そう言って彼女は、僕に笑いかけた。
僕の胸が弾んだのがわかった。
僕はこんな近くで女の子の笑顔を見たのは、生まれて初めてだった。
「…そうなんだ。」
僕はただ、曖昧な返事を返すしかなかった。
初めて見る大きな虹に、初めて見る女の子の満面の笑み。
僕はどうしていいか分からなかった。なんて言うのが正解なのか、こんな前例、小説でも映画でも見たことがない。
「見たことあるの?」
「え?」
「だって、”そうなんだ”って。」
彼女はその輝く目を、まん丸くして僕に向けた。
「…ううん、僕も初めて。」
僕は恥ずかしくて、彼女の後ろにあるカーテンを見ていた。
「そっか。そうだよね。これはなかなかないもん。へへっ、今日は良い日だなぁ。」
彼女はまたその目を虹に向けた。
その後、彼女はともだちに呼ばれ、僕の前から消えてしまった。
きっと時間にしてみれば一瞬だった。
僕の時間の流れだけ違ったんだ。
あの時の興奮が消えない。
あんな綺麗な瞳と笑顔は初めて見た。
あんなに透き通った、楽しそうな青色の声も、初めて聴いた。
彼女が僕と虹を交互に見た時に動いた、揺れるポニーテールが目に焼き付いて離れない。
前を走ってきたときにフワッと漂った、制汗剤の香り。
彼女は誰とでも話す。誰とでも仲が良い。
きっと僕に虹を報告したのも、たまたま近くにいたからに過ぎない。
だけど。
…また虹が出ないだろうか。
そしたらまた話しかけてくれるだろうか。
そしてら次は、次こそは、もっと上手く僕も受け答えしたい。
君が虹を見つけたから、今日がとても良い日になった。
僕が見つけただけでは何も変わらなかった日常が、
君が虹を見つけたら、スペシャルになった。
君の眩しい笑顔で、空気が変わった。
あぁ、まだ眠れない。
こんなこと、きっと君はすぐに忘れただろう。
けど僕は、これから虹を見つけるたびに、君を思い出すだろう。
もう僕は、君以外のことを考えられなくなっているかもしれない。
この作品は沢山のイメージが浮かぶので、また書くと思います。
「なんで虹を見つけて 僕に言ったんだろう」
こんなことで悩める日常に戻りたい。
ノイミーは青春の体現化。