臨床ファッシア瘀血学(8)ファッシア信号系
前回は「波動医学」というエネルギー医学の一つの視点を再考してみました。こうした身体全体をいわば無形化した発想を経過して、どのようにエネルギー医学的な視点を身体へと戻すか、という視点で今回は見直してみたいと思います。
そうした視点ですでに大きな問題を提示していたのが、鍼灸における神様的な存在でもある間中喜雄先生です。遺作のような形で没後出版された『体の中の原始信号』です。
ここで間中は「Xー信号系」として、経験的に自らが臨床的に確かめてきた経絡現象を記載しています。これをただの経絡だと述べるだけではなく、メスメリズムや微量漢方、そこから発展して「ホメオパシー」との関連にまで言及し、その診断システムの一つとして「O-リングテスト」を提示しています。本書が30年以上前の出版と考えるとその先見性は驚くべきものがあると思います。
ここで「Xー信号系」と間中の述べる仮説は以下の通りです。
「人間が、現在のように進化していない頃、今のように複雑な制御機構を持っていなかった時点で持っていた『原始的な信号系』が遺体制として、今なお残存する。」
同書で間中が仮説的なインフォメーション・システムとして「Xー信号系」の特徴をあげていますが、まさにここで展開しているファッシアによる情報系そのものといった感じです。
ただ当時は科学的な知見、とりわけファッシアを巡る量子医学的な視点(結合水等)やコラーゲン線維における自由電子の存在(セントジョルジュの主張等)、さらにはファッシアを直接観察できるエコー器機が未発達であったため、その媒体の候補をファッシアに絞るには至らなかったわけです。それでも従来の自律神経説や、ボンハン小体などによる解釈に陥ることなく、自らの経験と思考によって、それがこれまでのどれでもない「X」であるとして記載しています。以下にその特徴を引用します。
(A)なるべく微量のエネルギーで信号を与える。
(B) その反応をモニターするにも、それ自身が刺激となるような操作をなるべく避ける。
(C) 実際に臨床的にこのような操作が治療として有意義かどうか見直す。
(D) このような操作がいかなるパターンで反応を示すかを注意深く観察する。
ポイントとしては、微量な刺激で応答しているという点(A)と、それを知るには「生きている」状態で、非侵襲的な方法による検証が望ましい点(B)、そして治療として有意義である点(C)、そして生じた反応をどのようなパターンであるか、つまりその現象を物理現象として分類するという視点も重視していることに注目すべきです。
間中のいう「Xー信号系」が、そのままファッシアによるものですべて説明されるかどうかはわかりません。しかし、その大部分はこの仮説によって説明可能に思いますし、先生が存命でしたら概ね了承されるものなのではないかと勝手に妄想しております。
我が国においてはファッシアは現在、ファッシアに生ずる痛みの治療を中心に、エコーを中心とした可視化の分野が隆盛です。これに伴い過度の「正統な科学」へのこだわりも見られ、その大きな可能性が矮小化されている面もあります。これは当該分野を推進する総合診療系医師のホメオパシー等のエネルギー医学への無理解と偏見に依拠していることが起因しているでしょう。
しかし外科医であった間中先生のこの仮説を前にさらに「ファッシア」「ファシア」の解釈を拡大していくことの重要性もあるように思うのです。そうした展開を私はあえて「ファッシア信号系」と称し、ファッシア瘀血学の重要な領域として捉えたいと思います。
体の中の原始信号―中国医学とX‐信号系
板谷和子 地湧社 1990-02T