「経絡内科」の構想
最近の診療を見直していると、特に「疼痛」に関してはハイドロリリース、慢性症状に関しては奇経を用いたイオンパンピングの割合が増えてきたように感じます。
従来通りの瘀血症状に対する刺絡も、減ってはいないのですが、どうやら、「経絡」全体に対しての考え方の変化によって、技法の幅が広がってきたように感じています。(こうした変化があると不思議とそれを必要とする症状の患者さんの受診も増加したように思います)
こうした事情を考え、現在の診療実態を思う時、ふと「経絡内科」という用語が浮かびました。まあ整形内科的に「ファッシア内科」あたりが、神経内科との対で適当なように当初考えたのですが、そうするとファッシアを巡る慢性疼痛に限定されるような感じがして、「経絡」の使用がやはり適当かな、といったところです。
経絡内科の概念としては、いわゆる十二経絡のみではなく、それに付随する皮部、経筋、経別、さらには奇経すべてをひとつのシステムとして理解して全身の症状を扱う、というものです。具体的には、従来の鍼灸的な扱いに加えて、皮膚の特殊症状や皮膚科的症状に「皮部」、筋骨格系を中心とした整形的症状に「経筋」、いわゆる内科的な内臓症状に「経別」をあて、それらを接続する経絡をファッシアとして幅広く解釈するという感じです。
いわゆる現代医学的病名が、それらのシステムのどこに病変をもたらすか、そしてそれらを治療法としてどのように活用するか、がこの「経絡内科」のキモとなるでしょう。まさにその複雑さからも「経絡」システムは、「神経内科」の神経に匹敵するものと言えるでしょう(というよりあきらかにそれよりも複雑ですが)。
かつて刺絡やイオンパンピングなどの技法においては、医師の関与が重要な時代がありました。間中先生や工藤先生、浅見先生らの活躍です。また近年ではハイドロリリースにおいても、白石先生など近年の総合診療系の医師の活躍はいうまでもありません。こうした流れの中で、これらを統括する概念としても意義があるように思います。
しばらくはこの概念を活用しながら、診療を再考していくことになりそうです。統合医療の実践としての具体的な展開をすこし考えてみました。
医家のための鍼術入門講座
間中 喜雄 鍬谷書店 1977-10-01