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ニュートリノ振動も量子状態の重ね合わせ

ニュートリノ振動を量子状態の重ね合わせの観点から考えてみましょう。

地球に飛来してくる宇宙線はおもに陽子や原子核です。こうした宇宙線は大気中の酸素や窒素などの原子核と衝突して複数のパイ中間子を生成します。そのうち荷電パイ中間子は崩壊してミューオンとミューニュートリノを生成します。さらに、ミューオンは崩壊してミューニュートリノと電子ニュートリノを生成します。大気と宇宙線との衝突によって生成されたニュートリノを大気ニュートリノと呼びます。

ニュートリノには電子型、ミュー型、タウ型の3種類がありますが、ニュートリノはある距離を進むとこれらの型が重ね合わせの状態になります。これをニュートリノ振動といいます。大気ニュートリノの場合、宇宙線のエネルギーの関係で、ミューニュートリノとタウニュートリノが重ね合わせの状態になります。

ここで、ミューニュートリノ$${\nu_{\mu}}$$とタウニュートリノ$${\nu_{\tau}}$$の重ね合わせは以下のように書くことができます。

$${\begin{pmatrix} \nu_1 \\ \nu_2 \end{pmatrix}= \begin{pmatrix} \cos\theta & -\sin\theta \\ \sin\theta & \cos\theta \end{pmatrix}\begin{pmatrix} \nu_{\mu} \\ \nu_{\tau}\end{pmatrix}}$$

ここで、2種類のニュートリノの質量の固有状態を$${\nu_1}$$、$${\nu_2}$$とします。また、$${\theta}$$はニュートリノ間の混合角です。
このとき、ニュートリノ振動の確率は以下になります。

$${P(\nu_{\mu} \rightarrow \nu_{\tau})=\sin^2 2\theta\cdot\sin^2 \left( \frac{1.27\Delta m^2 L}{E} \right)}$$

ここで、$${\Delta m}$$は2種類のニュートリノの質量の差、$${L}$$はニュートリノの飛行距離で、$${E}$$はニュートリノのエネルギーです。つまり、ニュートリノ振動は、ニュートリノに質量があることの証拠にもなるのです。

このニュートリノ振動の証拠がスーパーカミオカンデでの観測により明らかにされました。ニュートリノ振動の効果を見出すには、大気ニュートリノが飛行する距離がそれなりに必要です。地球の反対側で生成されたニュートリノは、地球を通過するため飛行する距離が長いですが、真上の大気で生成されたニュートリノは飛ぶ距離が短いため、「真上」から来る大気ニュートリノと「真下」から来るニュートリノに差があればニュートリノ振動の証拠と言えます。

出展:「ニュートリノと重力波」のことが一冊でまるごとわかる(ベレ出版)

素粒子の標準模型は、ニュートリノには質量がないことを前提に築かれていますので、ニュートリノ振動の発見、つまりはニュートリノに質量があることの発見は素粒子の標準模型の修正を迫っているのです。

スーパーカミオカンデで観測された大気ニュートリノの角度分布。$${\cos\Theta =1}$$は真下を指す。実線はニュートリノ振動がない場合の理論値、破線はニュートリノ振動がある場合の理論値。

つまるところ、ニュートリノ振動も量子力学における状態の重ね合わせの効果です。

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