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授業計画の作成という重要な仕事

はじめに
 日本語教育の現場でずっと仕事をしてきて、現在もしているわたしは、コーディネータ(日本語学校で言うと主任)の仕事をずっとしてきました。わたしにとってコーディネータの仕事は、とても緊張感のある仕事でした。それは、コーディネータが作成する授業計画に沿って? 準じて? 参照して? 先生たちは授業を計画して実施するわけで、そのように考えると、学生における日本語習得のための授業経験をコーディネータ作成の授業計画が大きく左右するということになるからです。ここで、授業計画と言っているのは、コーディネータが作成する、各々の授業の内容を示した授業スケジュールのことです。
 以下では、基礎段階(いわゆる初級)の教育をめぐってコーディネータの重要な仕事である授業計画の作成について考えたいと思います。

1.授業計画以前の問題
1-1 日本語教育の目的と授業
 日本語教育の主要な目的は、シンプルに言って、学習者が日本語を上達させるのを支援・促進することです。そのために、コースの各コマで各先生が実践する授業(関連の予習や復習なども含む)は主要な位置を占めており、その目的に沿った授業が実践されなければなりません。そのために作成され共有されるのが授業計画です。

1-2 日本語の習得支援についての考え方
 どのような教育の場面においても、日本語の習得支援についての考え方があります。要は、各先生あるいは先生たちの間に、日本語の習得支援についての考え方が、整然とまとまった形であれ、離散的でまとまりなくであれ、明瞭にであれ、曖昧にであれ、あるわけです。
 表現活動の日本語教育では、基礎段階における日本語の習得支援を以下のように考えています。

 授業でのさまざまな経験を通して、言語活動の運営に関わる言葉遣いを蓄え、言語技量を育成することが、日本語の習得を促進する。
*ここでは、日本語の習得を、日本語の上達とほぼ同じ意味で使っている。

 そして、言語技量の育成は、以下のように考えています。

1.各ユニットでは、特定の話題を焦点化して、話題をめぐる言語技量を育成する。
2.話題は、話題の運営に関わる言葉遣いを考慮してコースに配列する。
3.2にあたっては、文型・文法事項の系列的な習得と語彙の体系的な習得ということも考慮する。
4.授業担当教師は、ユニットの話題に焦点化して言語技量を育成するように授業を実践する。
5.さらには、4とともに、それまでに形成した言葉遣いの蓄えと関連づけながら言語技量一般を増強するように授業を実践しなければならない。 

 表現活動の日本語教育でのこれらの考え方は、日本語習得支援の枠組み(話題中心に企画されたコース)や、日本語の習得支援をめぐっての目のつけどころ(言葉遣いや言語技量)を示して、教育全般を緩やかに方向づけているだけで、授業担当教師の授業実践を直截に制約するものではありません。文型・文法積み上げ方式では、「本課の学習言語事項(文型や文法事項)」として、教師の授業実践を直截に制約するものとなります。
 また、日本語の習得支援についての考え方は、コースの授業計画以前に、教師たちの間で共有されなければならないものです。それは、要は、根本の教育企画に関わることで、教育企画のレベルで共有されるべきものです。この部分の「共有」ができていないと、複数の教師による教育実践は一貫したものとならず、バラバラになってしまいます。文型・文法積み上げ方式では各課の主要な教育内容として学習言語事項を指定するので、教育実践自体は(表面上?)一貫したものとなります。しかし、その一貫した教育が、学生の日本語の上達につながるものかどうかは、疑問ありです。教育の緩やかな方向づけや指針の共有こそが、真に日本語の上達につながる日本語習得支援の実践を生み出すと言っていいでしょう。

2.コーディネータの仕事
2-1 教材≒教科書と授業計画の作成
 コース全体は、ユニットに区切られているので、授業計画作成の基本は、1つのユニットの各コマをどのように先生たちに実施してもらうかを考えて、各コマの枠に記述することとなります。それで、ここで「登場」するのが、教材です。
 1つのコースを複数の教師で担当する場合には、どんな場合であれ、教材≒教科書が必要でしょう。教材≒教科書をめぐる詳しい議論は省略しますが、教育実践の指針となり、学生における学習や教師による授業の足がかりとなるリソース的な教材はあったほうがいいと思います。そして、実際の授業計画は、多くの場合、教科書の中の当該のユニットにある教材の「この部分を、このように!」という形で記述されます。

2-2 授業計画と教師による授業実践 
 コーディネータは、ユニットの目標の達成のために貢献する授業各々の先生の授業で実践してもらえるように、授業計画で各コマについて授業の指示を記述します。ユニットの目標の達成のために貢献する授業の指示は、各コマで習得させるべき言語事項を指定するという形で行うことはできません。
 表現活動の日本語教育では、先に言ったように「教材のこの部分をこのように!」という形で授業の指示をしています。そこから先は、授業担当の各先生に委ねるしかありません。そして、そのように授業の指示を受けた先生は、自身に配当された「教材を活用した授業」についてそのユニットの中でのその授業の位置と役割をしっかりと検討して、漸進的に進行する言葉遣いの習得と言語技量の育成ということを考慮して、どのような授業をすればユニットの目標の達成に貢献できるかを考えて、自身の授業を実践することとなります。

2-3 雪玉作り?
 今言ったように、授業の指示より先は各先生に委ねるしかないわけですので、コーディネータとしては、各先生による各授業の実践で、学生において言葉遣いの習得と言語技量の育成が順調に進捗するように祈るような気持ちで授業計画を作成することとなります。授業計画作成の仕事は、あまりうまい譬えではありませんが、各先生に「雪玉」の制作を委ねつつ全体として一つの大きな雪玉を制作ような作業です。繰り返しになりますが、雪玉作りは、さまざまな言語事項の足し算で達成することはできません。

3.おわりに
 上のようなことを考えながら、今学期も! 授業計画を作成しました。緊張感のある仕事です。しかし、学生たちがムダな苦労なく有益に学習を進め、先生たちには学生たちの日本語の習得を着実に支援し促進する授業を実施してもらうために「根を詰めて」しました。先生たちを強く拘束することはない緩やかな授業計画ながら緻密な授業計画ができたと思います。


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