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ピンポイントの痛み [ショートショート]

朝から胃のあたりが重かった。いつものコーヒーがやけに苦く感じられ、食パンを一口かじっただけで気持ちが悪くなる。けれど、仕事を休むほどではないと判断し、いつも通り家を出た。

電車に揺られている間も、胃の奥に鈍い違和感があった。だが、それ以上に気になることがあった。腹痛の発生場所が、妙にピンポイントなのだ。おへその少し右上、そこだけが鋭く痛む。まるで何か小さな針で内側から突かれているような感覚だった。

会社に着き、デスクに座ると、痛みは少し引いた。しかし、油断するとまたズキズキと主張してくる。ランチに誘われたが、胃に優しそうなスープだけを注文した。すると、同僚の佐々木さんが「大丈夫?」と心配そうに聞いてきた。

「なんか、おへその右上あたりが痛くて……」
「盲腸じゃない?」

一瞬、血の気が引いた。急性虫垂炎なら放っておくとまずい。だが、そこまでの激痛ではないし、熱もない。とはいえ、素人判断は危険だ。午後の会議が終わると同時に、会社近くのクリニックに駆け込んだ。

診察室で医師に症状を伝えると、軽く腹部を押された。痛みがある場所を正確に指摘すると、医師は微笑んだ。

「盲腸ではなさそうですね。消化不良か、軽い胃腸炎でしょう」

ホッと胸をなでおろした。薬を処方してもらい、帰宅途中、コンビニでお粥を買った。

家に帰って温かいお粥を食べると、不思議と痛みは和らいできた。やっぱり、無理をせずに早めに診てもらって正解だったなと、布団の中で思った。次からは、体の小さな異変にも、もっと気を配ろう。

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