見出し画像

プロテイン専門店 [ショートショート]

駅から徒歩五分ほどの路地に、その店はあった。外観はごく普通のカフェのようで、大きな窓ガラスから中の様子が伺える。木製の看板には「プロテイン専門店 PURITY」と記されていた。

私はドアを押して中に入った。店内は白を基調とした清潔感のある空間で、棚には色とりどりのパウダーが整然と並べられている。プロテインの専門店とは聞いていたが、ここまで多彩な種類があるとは思わなかった。

「いらっしゃいませ」
カウンター越しに声をかけてきたのは若い男性だった。黒いエプロンをつけ、手にホイッパーを持っている。

「初めてなんですけど、どういうものがあるんですか?」
「初めての方には、カウンセリングをおすすめしています。」
そう言うと、男性は私を小さなテーブルに案内した。

テーブルには、いくつかのアンケート用紙が置かれていた。体重や身長、運動の頻度、アレルギーの有無など、項目は細かい。記入している間、私は自分がどれだけ「タンパク質」というものに無頓着だったのかを思い知らされた。

記入を終えると、彼はそれを読み取り、端末に入力しながら質問を続けた。
「普段の食事で、タンパク質を意識されることはありますか?」
「正直、ほとんど意識していません。でも、最近疲れやすくて、健康を気にするようになったんです。」
彼はうなずき、棚からいくつかのパウダーを取り出した。

「こちらが初心者向けのブレンドです。動物性と植物性のバランスをとっています。」
サンプルの袋を手に取りながら、私は成分表を眺めた。見慣れない単語が並んでいるが、「初めて」という文字に安心感を覚える。

「では、実際に作ってみましょうか?」
彼はカウンターに戻り、シェイカーを手に取った。数種類のパウダーを計量し、ミルクと水を加え、手際よくシェイクする。やがて、グラスに注がれたそれを手渡された。

一口飲んでみる。驚くほど飲みやすく、少しだけ甘みを感じた。これが「プロテイン」なのかと、今さらながら感心する。

「どうですか?」
「おいしいです。もっと苦いものだと思ってました。」
「最近はこういう味の研究が進んでいるんですよ。」

店を出る頃には、私はいくつかのパウダーとシェイカーを購入していた。道具が揃うと、なんとなく自分が健康的になったような気分になる。

次の日の朝、私はキッチンでシェイカーを振ってみた。音が響くたびに、昨日の店員の説明が頭をよぎる。「タンパク質」が少し身近になった気がした。

いいなと思ったら応援しよう!