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2004年 日本数学オリンピック本選 第4問 解答例

$${a+b+c=1}$$をみたす正の実数$${a, b, c}$$に対して、
$${ \frac{1+a}{1-a} + \frac{1+b}{1-b}+\frac{1+c}{1-c} \leqq 2\left(\frac{b}{a} + \frac{c}{b} + \frac{a}{c}\right)}$$
が成立することを証明せよ。ただし、等号が成立する条件を述べる必要はない。

公益財団法人 数学オリンピック財団HP 第14回(2004年)JMO本選の問題

コメント:

不等式の証明方法は別解が多い印象です。
この問題の解答として、計算でゴリ押しする方法を先に思いつきました。
この記事ではその後に見つけた、もう少しスマートな方法を紹介していますが、
スマートな方法を探している時間があったらゴリ押した方が早いケースもありますので、
後日別記事で紹介します。

考え方:

不等式の証明問題をいつでも解ける魔法の方法はあまりありませんが、
まずは等号が成立するような$${a, b, c}$$がすぐ見つかるかを考えるのが第一歩です。
なぜなら、その後に様々な式変形をするとき、
この時見つけた$${a, b, c}$$が常に等号成立する必要があり、
筋が良い変形方法を見つけるヒントになるからです。
この問題の場合、$${a = b = c = 1/3}$$が等号成立条件であることがすぐわかります。
つまり、右辺も左辺もすべての項が$${2}$$になるときが等号成立条件です。

さて、$${a+b+c=1}$$のような制約条件があるとき、
両辺各項、分数の場合は分子および分母の次数をそろえると扱いやすいことが多いです。
よって、左辺を

$$
\begin{align*}
\frac{1+a}{1-a} + \frac{1+b}{1-b}+\frac{1+c}{1-c}&=\frac{2a+b+c}{b+c}+\frac{a+2b+c}{c+a}+\frac{a+b+2c}{a+b}\\
&= \frac{2a}{b+c} + \frac{2b}{c+a} + \frac{2c}{a+b} + 3
\end{align*}
$$

のように整理します。
このままだとまだ項が多くて扱いづらいので、
定数項である$${3}$$以外を左辺に移し、
上手く項のペアを作って整理すると

$$
\frac{bc}{a(c+a)}+\frac{ca}{b(a+b)}+\frac{ab}{c(b+c)} \geqq \frac{3}{2}
$$

という形に変形することができます。
割とやりやすそうな形になりました。
ここからは試行錯誤していい方法を見つけるしかないのですが、
コーシーシュワルツの不等式を用いて左辺をさらにすっきりした形の式で下から抑えることができれば、
2段階で結論にたどり着くことができます。
(これは試行錯誤でひねり出すしかなさそうです・・・
 コーシーシュワルツの不等式の使いこなしは結構難しいです。)

近年、不等式の証明問題はJMO本選では出題されていませんが、
数学的な検証の積み重ねというよりは、
式変形のテクニックが問われるという点で、
あまりいい出題ではないと判断されたのかもしれません。

解答例:

与式の左辺は

$$
\begin{align*}
\frac{1+a}{1-a} + \frac{1+b}{1-b}+\frac{1+c}{1-c}&=\frac{2a+b+c}{b+c}+\frac{a+2b+c}{c+a}+\frac{a+b+2c}{a+b}\\
&= \frac{2a}{b+c} + \frac{2b}{c+a} + \frac{2c}{a+b} + 3
\end{align*}
$$

と変形できる。よって証明すべき不等式は

$$
\begin{align*}
&2\left(\frac{b}{a} + \frac{c}{b} + \frac{a}{c}\right)  \geqq \frac{2a}{b+c} + \frac{2b}{c+a} + \frac{2c}{a+b} + 3 \\
\Leftrightarrow &\frac{2b}{a} - \frac{2b}{c+a}+\frac{2c}{b} - \frac{2c}{a+b}+\frac{2a}{c} - \frac{2a}{b+c} \geqq 3 \\
\Leftrightarrow &\frac{2bc}{a(c+a)}+\frac{2ca}{b(a+b)}+\frac{2ab}{c(b+c)}\geqq 3 \\
\Leftrightarrow &\frac{1}{abc}\left(\frac{b^2c^2}{c+a}+\frac{c^2a^2}{a+b}+\frac{a^2b^2}{b+c} \right)\geqq \frac{3}{2} \tag{1}
\end{align*}
$$

である。
コーシーシュワルツの不等式*より

$$
\begin{align*}
&\left\{(c+a) + (a+b) + (b+c)\right\}\left(\frac{b^2c^2}{c+a}+\frac{c^2a^2}{a+b}+\frac{a^2b^2}{b+c}\right) \geqq (bc + ac + ab)^2\\
\Leftrightarrow & \left(\frac{b^2c^2}{c+a}+\frac{c^2a^2}{a+b}+\frac{a^2b^2}{b+c}\right) \geqq \frac{1}{2}(bc + ca + ab)^2 \tag{2}
\end{align*}
$$

であり、

$$
\begin{align*}
\frac{(ab + bc + ca)^2}{abc} - 3 &=\frac{a^2b^2 + b^2c^2 + c^2a^2 - a^2bc- ab^2c - abc^2}{abc}\\
&=\frac{a^2(b-c)^2 + b^2(c-a)^2 + c^2(a-b)^2}{2abc} \\
& \geqq 0 \\
\Leftrightarrow \frac{(ab + bc + ca)^2}{abc} &\geqq 3  \tag{3}
\end{align*}
$$

を得る。(2)(3)を合わせると、

$$
\begin{align*}
\frac{1}{abc}\left(\frac{b^2c^2}{a+c}+\frac{a^2c^2}{a+b}+\frac{a^2b^2}{b+c} \right)&\geqq \frac{(bc + ac + ab)^2}{2abc} \\
& \geqq \frac{3}{2}
\end{align*}
$$

となり(1)が示され、従って元の式が示された。

注:

*コーシーシュワルツの不等式は教科書レベルなのでおさえておくべきです。
3項の場合は、実数$${x, y, z, u, v, w}$$について、

$$
(x^2 + y^2 + z^2)(u^2 + v^2 + w^2) \geqq (xu + yv + zw)^2
$$

です。覚えづらい形に見えますが、
ベクトル$${\overrightarrow{x} = (x, y, z), \overrightarrow{u} = (u, v, w)}$$に対して

$$
|\overrightarrow{x}||\overrightarrow{u}| \geqq \overrightarrow{x}\cdot\overrightarrow{u}
$$

の両辺を二乗した式として覚えれば証明も自明になります。
解答では、
$${x = \sqrt{c + a}, y = \sqrt{a + b}, z = \sqrt{b + c}}$$
$${u = \frac{bc}{\sqrt{c + a}}, v = \frac{ca}{\sqrt{a + b}}, w = \frac{ab}{\sqrt{b + c}}}$$
としたものを使っています。

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