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2021年 日本数学オリンピック本選 第3問 解答例

鋭角三角形$${ABC}$$の辺$${AB, AC}$$上にそれぞれ点$${D, E}$$があり、$${BD=CE}$$をみたしている。また、線分$${DE}$$上に点$${P}$$が、三角形$${ABC}$$の外接円の$${A}$$を含まない方の弧$${BC}$$上に点$${Q}$$があり、$${BP:PC = EQ:QD}$$をみたしている。ただし、点$${A, B, C, D, E, P, Q}$$は相異なるものとする。このとき、$${\angle BPC = \angle BAC + \angle EQD}$$が成り立つことを示せ。
なお、$${XY}$$で線分$${XY}$$の長さを表すものとする。

公益財団法人 数学オリンピック財団HP 第31回(2021年)JMO本選の問題

考え方:

この問題はパスカルの定理
パスカルの定理 - Wikipedia
を知っていることが前提となっている作問と思われます。
解けなかった方は、パスカルの定理を理解したうえで再挑戦することをお勧めします。
今回の問題の位置関係でのパスカルの定理の証明を記事の最後に付記します。

さて、正確に図を描くことができれば、
三角形$${ABC}$$の外接円と直線$${BP}$$と直線$${QE}$$が一点で交わる
(同様に、外接円と直線$${CP}$$と直線$${QD}$$も一点で交わる)
ことが推測できます。
実際、これらが一点で交われば、あとは角度を追うだけで容易に題意を示すことができます。

この3つが一点で交わることを示す方針として、
(i)円$${ABC}$$と$${BP}$$の交点が$${QE}$$上にある
(ii)円$${ABC}$$と$${QE}$$の交点が$${BP}$$上にある
(iii)$${BP}$$と$${QE}$$の交点が円$${ABC}$$上にある
の3つが考えられますが、
円周角を利用して角度を追いやすく、
かつ$${BP:PC = EQ:QD}$$という条件を使いやすい方針として
(ii)がやりやすいことがわかります。

そこで、直線$${QD}$$と円$${ABC}$$の交点を$${F}$$とし
直線$${QE}$$と円$${ABC}$$の交点を$${G}$$としたとき、
$${FC}$$と$${BG}$$の交点$${P'}$$が$${P}$$と一致することを示していきます。
ここでパスカルの定理などを駆使することになります。

解答例:

直線$${QD}$$と円$${ABC}$$の交点を$${F}$$、
直線$${QE}$$と円$${ABC}$$の交点を$${G}$$、
$${FC}$$と$${BG}$$の交点を$${P'}$$とする。


PとP'が一致することを示す。

パスカルの定理より、$${P'}$$は$${DE}$$上にある。
三角形$${FBP'}$$と三角形$${GCP'}$$が相似であるから、
$${\frac{FB}{GC} = \frac{BP'}{PC'}}$$である。


また、三角形$${FBD}$$と三角形$${AQD}$$は相似であり、
三角形$${GCE}$$と三角形$${AQE}$$は相似であることより、
$${FB = \frac{AQ \cdot DB}{DQ}, FC = \frac{AQ \cdot EC}{EQ}}$$
であるから、

$$
\frac{FB}{GC} = \frac{DB\cdot EQ}{DQ\cdot EC} = \frac{EQ}{DQ} = \frac{BP}{PC}
$$

である。
以上より、$${\frac{BP}{PC} = \frac{BP'}{P'C}}$$が成り立つ。

$${P}$$と$${P'}$$が異なる点だとする。
$${P}$$と$${P'}$$はいずれも$${DE}$$上の点である。

$$
PB = DB \frac{\sin \angle BDP}{\sin \angle DBP}, PC = EC \frac{\sin \angle CEP}{\sin \angle ECP}
$$

より、これと$${DB = EC}$$から

$$
\frac{BP}{PC} = \frac{\sin \angle BDP}{\sin \angle CEP} \frac{\sin \angle ECP}{\sin \angle DBP}
$$

となる。同様に

$$
\frac{BP'}{P'C} = \frac{\sin \angle BDP}{\sin \angle CEP} \frac{\sin \angle ECP'}{\sin \angle DBP'}
$$

である。
よって、$${\frac{BP}{PC} = \frac{BP'}{P'C}}$$という条件は

$$
\frac{\sin \angle ECP}{\sin \angle DBP} = \frac{\sin \angle ECP'}{\sin \angle DBP'}
$$

となる。
$${P}$$が$${P'}$$より$${E}$$側にあれば、
$${\angle DBP' < \angle DBP, \angle ECP' > \angle ECP}$$であるため

$$
\frac{\sin \angle ECP}{\sin \angle DBP} < \frac{\sin \angle ECP'}{\sin \angle DBP'}
$$

となって不適であり、
$${P}$$が$${P'}$$より$${D}$$側にあれば、

$$
\frac{\sin \angle ECP}{\sin \angle DBP} > \frac{\sin \angle ECP'}{\sin \angle DBP'}
$$

となって不適である。

よって$${P}$$と$${P'}$$は一致する。
つまり円$${ABC}$$と直線$${BP}$$と直線$${QE}$$が一点で交わり、
円$${ABC}$$と直線$${CP}$$と直線$${QD}$$も一点で交わる。

このとき、$${\angle PCB = \angle FAB, \angle PBC = \angle GAC}$$であるから、

$$
\begin{align*}
\angle BPC & = 180^{\circ} - \angle PBC - \angle PCB \\
&= 180^{\circ} - \angle FAB - \angle GAC\\
&= \angle FAG +\angle FQC - \angle FAB - \angle GAC\\
&= \angle BAC + \angle EQD
\end{align*}
$$

となり、題意は示された。

追記:パスカルの定理の証明

$${AB}$$と$${GQ}$$の交点を$${S}$$、
$${AB}$$と$${FC}$$の交点を$${T}$$、
$${GQ}$$と$${FC}$$の交点を$${U}$$とする。


図掲載の都合上少し書き換えましたが、位置関係は変わっていません。
Sは上側に来るかもしれませんが、証明は同じです。

メネラウスの定理より以下の3式が成り立つ

$$
\begin{align*}
\frac{UE}{ES}\frac{SA}{AT}\frac{TC}{CU}&= 1 \tag{1}\\
\frac{SD}{DT}\frac{TF}{FU}\frac{UQ}{QS}&= 1 \tag{2}\\
\frac{TP'}{P'U}\frac{UG}{GS}\frac{SB}{BT}&= 1 \tag{3}
\end{align*}
$$

また、方べきの定理より以下の3式が成り立つ

$$
\begin{align*}
\frac{SA\cdot SB}{SG\cdot SQ} &= 1 \tag{4}\\
\frac{TC\cdot TF}{TA\cdot TB} &= 1 \tag{5}\\
\frac{UG\cdot UQ}{UC\cdot UF} &= 1 \tag{6}\\
\end{align*}
$$

(1)(2)(3)を辺々かけたものと(4)(5)(6)から

$$
\frac{UE}{ES}\frac{SD}{DT}\frac{TP'}{P'U} = 1
$$

メネラウスの定理(の逆)より$${D, P', E}$$は一直線上にある。

この証明を本番中に導出するのは酷でしょう。
教科書レベルでない定理を知っていないと解けない出題はやや疑問ですが、
これを機に対策しておきましょう。

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