![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/161494602/rectangle_large_type_2_a417ecaa7656d30086ea6610b1831451.png?width=1200)
2007年 日本数学オリンピック本選 第2問 解答例
正の実数に対して定義され、実数値をとる関数$${f}$$であって、任意の正の実数$${x,y}$$に対して不等式
$${f(x) + f(y) \leqq \frac{f(x+y)}{2}, \frac{f(x)}{x} + \frac{f(y)}{y} \geqq \frac{f(x+y)}{x+y}}$$
をみたすものをすべて求めよ。
考え方:
(注:解説・解答ともに長くなってしまいましたが、計算量や処理の量は決して多くありません。)
与えられているものが不等式なのに関数を決定しないといけません。
こういう場合のセオリーは、同じになるもので挟むことです。
幸い、$${f(x+y)}$$は1つ目の不等式では上から抑えられ、
2つ目の不等式では下から抑えられますから、
挟むのはたやすいです。
とはいえ、上からの抑えと下からの抑えが等しくなるのは$${x =y}$$の時のみだとわかります。
これで得られる結果はやや限定的です。
例えば$${f(x) = -x^2}$$は条件を満たすことがわかります。
この時、2つ目の不等式は常に等号が成立しますが、
1つ目の不等式はそうはいきません。
つまり、2つ目の不等式の方が強い方程式であるため、
より活用しがいがあることがわかります。
ですので、これまで得られた情報をもとに、
2つ目の不等式だけでさらに「挟む」方法を探します。
これで、$${x}$$が整数の時の結果を得ることができます。
さらに、そこから$${x}$$を有理数に拡張するのはたやすいです。
$${x}$$を実数全体に拡張する必要がありますが、
これは連続性や単調性が示せればOKです。
(ということを知っていると大変有利な問題でした。)
解答例:
$${f(x) + f(y) \leqq \frac{f(x+y)}{2}}$$を(1)式、
$${ \frac{f(x)}{x} + \frac{f(y)}{y} \geqq \frac{f(x+y)}{x+y}}$$を(2)式とする。
(1)(2)に$${y = x}$$を代入すると、
$${2f(x) \leqq \frac{f(2x)}{2}, \frac{2f(x)}{x} \geqq \frac{f(2x)}{2x}}$$より、
$${4f(x) \leqq f(2x) \leqq 4f(x)}$$であるから、
$$
f(2x) = 4f(x) \tag{3}
$$
を得る。
(1)(2)に$${y=2x}$$を代入すると、
$${5f(x) \leqq \frac{f(3x)}{2}, \frac{6f(x)}{2x} \geqq \frac{f(3x)}{3x}}$$より、
$${10f(x) \leqq f(3x) \leqq 9f(x)}$$であるから、
$${f(x) \leqq 0}$$を得る。
つまり、すべての正の実数$${x}$$に対して$${f(x)}$$は$${0}$$以下である。
(3)式の$${x}$$を$${2^kx}$$($${k}$$は正の整数)とおくと、
$${f(2^kx) = 2^2f(2^{k-1}x) = \cdots = 2^{2k}f(x)}$$
を得る。
$${n}$$を正の整数としたとき、
(2)式より、正の実数$${x_1, x_2, \cdots, x_n}$$に対し、
$$
\begin{align*}
\frac{f(x_1)}{x_1} +\frac{f(x_2)}{x_2} + \cdots +\frac{f(x_n)}{x_n} &\geqq \frac{f(x_1+x_2)}{x_1+x_2} +\frac{f(x_3)}{x_3} + \cdots +\frac{f(x_n)}{x_n} \\
&\geqq\frac{f(x_1+x_2 + x_3)}{x_1+x_2 + x_3} +\frac{f(x_4)}{x_4} \cdots +\frac{f(x_n)}{x_n}\\
&\vdots \\
& \geqq \frac{f(x_1 + x_2 + \cdots + x_n)}{x_1 + x_2 + \cdots + x_n} \tag{4}
\end{align*}
$$
となり、$${x_1 = x_2 = \cdots = x_n = x}$$とすると、
$$
n^2f(x) \geqq f(nx)
$$
を得る。また、$${k_0}$$を$${2^{k_0} > n}$$となるような正の整数(これは$${n}$$をどうとっても存在する)とおく。
(4)と同様に
$$
\frac{f(x_1)}{x_1} +\frac{f(x_2)}{x_2} + \cdots +\frac{f(x_{2^{k_0}-n+1})}{x_{2^{k_0}-n+1}} \geqq \frac{f(x_1 + x_2 + \cdots + x_{2^{k_0}-n+1})}{x_1 + x_2 + \cdots + x_{2^{k_0}-n+1}}
$$
であるから、$${x_1}$$に$${nx}$$を代入し、$${x_2= x_3 = \cdots = x_{2^{k_0}-n+1} = x}$$とすると、
$$
\frac{f(nx)}{nx} + (2^{k_0}-n)f(x) \geqq 2^{k_0}f(x)\\
\rightarrow f(nx) \geqq n^2f(x)
$$
を得る。以上より、$${f(nx) = n^2f(x)}$$を得る*1。
さらに、$${m}$$を正の整数としたとき、$${x=\frac{m}{n}}$$を代入すると、
$${f(m) = n^2 f\left(\frac{m}{n}\right)}$$より、
$${f\left(\frac{m}{n}\right) = \left(\frac{m}{n}\right)^2f(1)}$$
を得る。よって、任意の有理数$${p}$$について$${f(p) = p^2f(1)}$$となる。
さて、(2)式と$${f(x) \leqq 0}$$から
$$
\frac{f(y)}{y} \geqq \frac{f(x+y)}{x+y}- \frac{f(x)}{x} \geqq \frac{f(x+y)}{x+y}
$$
であるので、
$$
f(y) \geqq \frac{(x+y)f(y)}{y} \geqq f(x+y) \tag{5}
$$
となる。($${f(x)}$$は広義単調減少である。)
特に、$${f(1)\leqq 0 }$$となる。
(i) $${f(1) = 0}$$の時、
すべての有理数$${p}$$に対して$${f(p) = 0}$$となるが、
(5)を満たすにはすべての正の実数$${x}$$に対して$${f(x) = 0}$$である必要がある。
これは元の式を満たす。
(ii) $${f(1) < 0}$$のとき
ある実数$${r}$$に対し$${r^2f(1) < f(r) (<0)}$$であるとすると、
$${\sqrt{\frac{f(r)}{f(1)}} < r}$$となるが、
$${\sqrt{\frac{f(r)}{f(1)}} < q < r}$$となる有理数$${q}$$がかならず存在する*2。
この時、$${f(q) = q^2f(1) < f(r)}$$となるが、$${q < r}$$であるため(5)に矛盾する。
ある実数$${r}$$に対し$${f(r) < r^2f(1)}$$であるとしても同様に矛盾するため、
すべての実数$${r}$$に対して$${f(r) = r^2f(1)}$$となる必要がある。
これは条件を満たす。
以上より、$${f(x) = cx^2}$$ ($${c}$$は$${0}$$以下の任意の実数)
コメント:
*1 上下から挟んで値を決定する方針であれば、他にも挟み方は色々あります。たとえば、$${f(2x)}$$, $${f(4x)}$$と$${f(8x)}$$から$${f(6x)}$$がわかります。ここから$${f(3x)}$$と$${f(5x)}$$も出せます。
この作業を繰り返すことで同じ結果を得ることができます。
*2 有理数の稠密性、つまり、任意の2つの異なる実数の間に有理数が存在することを利用しています。ピンとこない方はぜひ調べておくとよいです。
これを知っていれば、単調減少であることが示された時点で有理数から実数全体に結果を適用することは「いつもの手順」という感じです。
お知らせ:
少しでも興味深い、楽しいと感じたらぜひスキやコメント、フォローください!
間違いなど見つけましたら是非お教えください。
他に公開している記事などの一覧はこちら
ぜひ初めに見てください。|光捷 (note.com)