
日本数学オリンピック本選 関数方程式問題へのアプローチ法
はじめに
関数$${f}$$に関する方程式を関数方程式と呼び、
ここから関数$${f}$$を決定する問題は各国際大会も含め頻繁に出題されています。
JMO本選での具体的な過去問は以下にまとめています。
この記事では、過去問を解いた経験から、
関数方程式の問題に取り組む際の基本的な考え方を紹介します。
もちろん、ここで紹介する基本的な考え方をあてはめるだけで
解けるほど甘い出題はありませんが、
基本装備を身に着けるだけで見通しがかなり変わると思います。
基本的な処理 ~代入して条件を詰める~
高校数学では$${f(x)}$$が多項式の場合で似たような問題を扱うと思います。
$${f(x)}$$が多項式であれば
$${f(x) = ax^3 + bx^2 + cx +d}$$
のようにおいて処理することができました。
しかし、JMO本選で出題されるほとんどのケースでは多項式という限定はありません。
$${f(x)}$$を多項式と仮定して同様の処理を行うこともできなくはないですが、
「で、多項式じゃない場合はどうなる?」となり、
イチから検討をし直すことになります。
結局、$${x, y}$$に様々な値や式を代入して
必要条件を整理していくことが基本方針となります。
代入するときの基本は、
①項が消えて式が簡潔になるもの
例えば
・$${xf(y)}$$ という項があるときに$${x=0}$$を代入する。
・$${f(x) - f(y)}$$があるときに$${x = y}$$とする。
など
②導いた関係式を別の部分で活用するようなもの
例えば$${f(f(x)) = x}$$を得た時に、
元の式の$${f(x)}$$の$${x}$$に$${f(x)}$$を代入するなど
です。
代入のときに気にすべきこと
例えば任意の実数$${x, y}$$で$${f(x + f(y)) = (右辺)}$$という形があるとき、
$${x = -f(y)}$$を代入すれば$${f(0) = (右辺)}$$を得ることができます。
同様に、$${f(x + f(x)) = (右辺)}$$という形があるとき、
$${x + f(x) = 0}$$とすることで$${f(0) = (右辺)}$$を得たくなりますが、
これは必ずできるとは限りません。
$${x + f(x) = 0}$$が成り立つような$${x}$$が存在するとは限らないからです。
こう書くと当たり前に見えますが、
例えば$${f(x^2 + f(y)) = (右辺)}$$の時はどうでしょうか。
$${f(y)}$$が負の数を取れるかどうかで$${f(0) = (右辺)}$$の形にできるかが変わってきます。
式変形をするとき、得たい結果から逆算して変形の仕方を考えることは多いですが、
それが$${x, y}$$への代入で必ず行える変形なのかは常に意識する必要があります。
また、ありがちな変形として、$${f(s) = 0}$$となるような$${s}$$の代入があります。
これも、そもそもそのような$${s}$$が存在することを示してからでないと、
$${f(x) = 0}$$となるような$${x}$$が存在しないような解を網羅できなくなるので注意が必要です。
全射と単射
よくある手法として、$${f}$$の全射性、単射性の利用があります。
全射性:
例えば$${f(x + f(x)) = 2x +2}$$のような形になったとき、
$${x}$$がすべての実数値をとれるならば
この式の右辺もすべての実数値をとれるので、$${f}$$の全射性が示せます。
これと別に、例えば$${f(f(x)) = f(x) + 1}$$がわかっていれば、
$${f(x)}$$はすべての実数値をとれるので、これを$${x}$$と置き換えて
$${f(x) = x + 1}$$を得ることができます。
単射性:
$${s, t}$$について$${f(s) = f(t)}$$と仮定したときに$${s = t}$$が導ける、
または、$${s \neq t}$$かつ$${f(s) = f(t)}$$と仮定したときに矛盾が導けるなら、
$${f}$$の単射性が示されます。
これと別に、例えば$${f(f(x)) = f(x + 1)}$$などがわかっていると、
両辺の$${f}$$を外して$${f(x) = x + 1}$$を得ることができます。
単射性はかなり強力な武器なので、
解が一次関数などの単射な関数になることが想定できる場合、
検討してみるのはほぼ必須と言えます。
解が絞れた後の注意
様々な検討の末、例えば$${f(x)\{f(x) - x\} = 0}$$という関係を得ることができたとき、
$${f(x) = 0, x}$$という結論を得たくなりますが、要注意です。
ここで得られたのは「すべての$${x}$$に対して$${f(x) = 0 または x}$$」という結果であり、
「すべての$${x}$$に対して$${f(x) = 0}$$
またはすべての$${x}$$に対して $${f(x) = x}$$」
ではありません。
ある$${s (\neq 0)}$$に対して$${f(s) = 0}$$になるが
ある$${t (\neq 0)}$$に対して$${f(t) = t}$$となる可能性があるということです。
本当に「すべての$${x}$$に対して$${f(x) = 0 または x}$$」という結論でよいかは
$${f(x)\{f(x) - x\} = 0}$$からはわからないので、
元の式に立ち返ってこれが十分条件であるかを慎重に確かめる必要があります。
定義域と値域
問題によって定義域と値域が実数全体ではなく整数の場合や有理数の場合、
正の数のみの場合など、さまざまなバリエーションがあります。
解の適用範囲が整数から有理数、実数に拡張されていくケースとして
コーシーの関数方程式 $${f(x+y) = f(x) + f(y)}$$が有名です。
調べれば解説記事がいくらでも出てくるのでここでは触れません。
基本知識としてぜひ学んでおくことをお勧めします。
特に、有理数から実数に拡張する際に、
$${f}$$の単調性または連続性が前提として必要になることは
知っておいて損はないです。
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