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2020年 日本数学オリンピック本選 第3問 解答例

正の整数に対して定義され正の整数値をとる関数$${f}$$であって、任意の正の整数$${m,n}$$に対して不等式
$${m^2 + f(n)^2 + \left(m - f(n)\right)^2 \geqq  f(m)^2 + n^2}$$
をみたすものをすべて求めよ。

公益財団法人 数学オリンピック財団HP 第30回(2020年)JMO本選の問題

考え方:

関数方程式(不等式)のセオリー通り簡単になるような代入を探しても、
あまり有効な結果を得られないクセのある出題です。
しいて言えば、$${m = f(n)}$$としたときに
$${2f(n)^2 \geqq f(f(n))^2 + n^2}$$を得るくらいです。

不等式から関数を決定しないといけないので、挟んでいく方向性で行きます。
当たりをつけると$${f(m) = m}$$が答えとして見つかります。
定義域が正の整数値のみなので、帰納的に順次決定していけないかを探ります。
$${f(1)}$$が正の整数であることを利用すれば、$${m=2, n=1}$$の代入により$${f(2) \geqq 2}$$が示せますから、
これを繰り返せば下からおさえるのは帰納的にできそうです。

次に上から抑えることを考えます。
ある正の整数$${m_0}$$について$${f(m_0) = m_0}$$となれば、
すべての正の整数$${m}$$に対して$${f(m) = m}$$となることも
適切な代入を行うことで容易に示せます。

あとは、$${f(m_0) = m_0}$$となる$${m_0}$$がないときの処理です。
$${f(m) > m}$$となりますから、$${f(m) - m = p}$$となるような正の整数$${p}$$がとれます。 
この左辺の形は、最初に見つけた$${2f(n)^2 \geqq f(f(n))^2 + n^2}$$から作れますから、
そこで言えることを考えていけば答えにたどり着けます。

解答例:

条件より$${f(1) \geqq 1}$$である。
帰納法の仮定として正の整数$${k}$$について$${f(k) \geqq k}$$とする。
条件式に$${m = k, n=k+1}$$を代入すると、

$$
\begin{align*}
2f(k+1)^2 + 2k^2- 2kf(k+1) &\geqq f(k)^2 + (k+1)^2 \geqq 2k^2+2k+1\\
2f(k+1)(f(k+1) -k) &\geqq 2k+1 > 0
\end{align*}
$$

を得る。よって、$${f(k+1) \geqq k+1}$$となる。
数学的帰納法より、すべての整数$${m}$$について$${f(m) \geqq m}$$となる。

(i)ある正の整数$${m_0}$$に対し$${f(m_0) =m_0}$$となるとき
元の不等式に$${m=m_0+1, n=m_0}$$を代入し、

$$
\begin{align*}
(m_0+1)^2 + m_0^2 + 1 &\geqq m_0^2 + f(m_0+1)^2 \\
\Rightarrow  (m_0+1)^2 + 1 & \geqq f(m_0+1)^2
\end{align*}
$$

となるが、$${f(m_0+1)}$$は正の整数であるため、
$${m_0+1 \geqq f(m_0+1)}$$となる。
よって、$${f(m_0+1) = m_0+1}$$となる。
これを繰り返すことにより、$${m_0}$$以上のすべての正の整数$${m}$$に対し、
$${f(m) = m}$$となる。

また、元の不等式に$${m=m_0-1, n=m_0}$$を代入し、

$$
\begin{align*}
(m_0-1)^2 + m_0^2 + 1 &\geqq m_0^2 + f(m_0-1)^2 \\
\Rightarrow  (m_0-1)^2 + 1 & \geqq f(m_0-1)^2
\end{align*}
$$

となるが、$${f(m_0-1)}$$は正の整数であるため、
$${m_0-1 \geqq f(m_0-1)}$$となる。
よって、$${f(m_0-1) = m_0-1}$$となる。
これを繰り返すことにより$${m_0}$$以下のすべての正の整数$${m}$$に対し、
$${f(m) = m}$$となる。
以上まとめて、すべての正の整数$${m}$$に対し$${f(m) = m}$$を得る。
これは元の不等式を満たす。

(ii) $${f(m) = m}$$となるような正の整数がないとき
すべての正の整数$${m}$$に対して$${f(m) > m}$$である。
$${f(1) - 1 = p > 0}$$とおく。
$${k}$$を正の整数とし、
元の不等式で$${m = f^{k}(1), n=f^{k-1}(1)}$$とおく
(ただし、$${f^k(1)は1にfをk}$$回作用させたもの)

$$
\begin{align*}
2f^{k}(1)^2 &\geqq f^{k+1}(1)^2 + f^{k-1}(1) \\
\Leftrightarrow f^k(1)^2 -f^{k-1}(1) & \geqq f^{k+1}(1)^2 -f^k(1)^2\\
\Leftrightarrow f^k(1) -f^{k-1}(1)&\geqq \{ f^{k+1}(1) -f^k(1) \} \frac{f^{k+1}(1) +f^k(1)}{f^k(1) +f^{k-1}(1)} \\
&> f^{k+1}(1) -f^k(1)
\end{align*}
$$

となる。ただし、途中で$${f^{k+1}(1) > f^k(1)>f^{k-1}(1)}$$を用いた。
よって、

$$
p = f(1) - 1 > f^{2}(1) -f^1(1) > f^3(1) -f^2(1) > \cdots
$$

となるが、各項は整数であることから、
$${f^{p+1}(1) - f^{p}(1) \leqq 0}$$
となる。これは$${f(m) > m}$$に反するため矛盾である。

以上より、解は$${f(m) = m}$$

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