セッション定番曲その74:On Green Dolphin Street
ジャズセッションでの定番曲。人気の秘密はどこにあるのでしょうか。インストのイメージが強いですが、歌っても楽しい曲です。
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
ポイント1:人気の秘密、構成を理解する
このコラムは「歌う人」を主に想定しているので、曲の背景や歌詞の世界観の説明から始めることが多いのですが、この曲に関しては、まず構成やコード進行とメロディの関係性を理解しておいた方が楽しめると思うので、そこから始めます。下記の動画がすごく丁寧で分かりやすいです。
(字幕表示可能)
こっちは「キーC」で解析
On Green Dolphin Streetのコード進行分析とアドリブ例
楽器をやらずに歌うことに専念している人は「音楽理論」的なことって敬遠しがちですが、概要だけでも知っておくと歌うことがより楽しくなると思います。
構成:ABACで、お約束的には、Aパートはラテン→Bは4ビート(スイング)→Aはラテン→Cは4ビート(スイング)とリズムパターンが変わっていきます。大方のジャズセッションではこれに沿って演奏されます。もちろん、それに固執する必要はなくて、全部ラテンでも全部4ビートでもいいし、バラードでもいいです。後述する有名な演奏でもそれぞれ自由にアレンジされています。
コード進行とメロディの関係性:非常にメカニカルに出来ていて、だからこそ覚えやすいメロディなんだと思います。
Aパートはベースがペダルポイント(上のコード進行とは別にずっと同じ音を弾く)になっていて、メロディは出発点は違うけどラインは同じものになっています。このパートがラテンリズムで演奏されることが多いのは、その雰囲気をもともとから感じるからですね。
Bパート、Cパートは「2-5-1」になっている箇所が多く、楽器アドリブを組み立てやすくなっています。ここが4ビートで演奏されることが多いのは、いわゆる「ジャズっぽい」進行になっているからですね。Bパートのメロディもメロディは出発点は違うけどラインは同じものになっています。
Cパートはテーマ時だけ12小節になってキメが繰り返されますが、アドリブ時には8小節になることが多いです。これも事前の打合わせで、毎回12小節で回すことも可能です。(この辺り、歌用の譜面と演奏用の譜面で記述が違っていたりするので、要確認です)
やはりAパートのメロディのポップさが決め手ですね。ここが出てくるとホッとします。
ポイント2:映画は忘れ去られて、曲だけが残って、スタンダード化
もともとは1947年の「Green Dolphin Street」という映画の為に書かれた曲でしたが、映画自体は微妙な出来(陳腐なストーリー、チープな特撮、人種差別的描写など)で、後年に生き残ることが出来ず忘れられていき、曲だけが残り、ジャズミュージシャン達に取り上げられていき、ジャズスタンダード化したというパターンです。こういう曲って他にも多いですね。具体的なイメージを提示してしまう映像作品って陳腐化が早いけど、より抽象度の高い「音楽」って良いモノは寿命が長いと言えますね。
映画のタイトルと区別する為か、曲名は「On Green Dolphin Street」と表記されることが多いです。演奏現場では「グリーンドルフィン」と呼ばれてしまっているので、黒本などで「G」から始まると思って探すと「あれ?」と戸惑ってしまうこともありますね。
映画の予告編
ポイント3:Green Dolphin Street ってどこの通り?
有名な場所なら、そこの情報を知って情景を思い浮かべて、歌詞のイメージを広げたいですよね。原作小説~映画の舞台になっているのは、実在するGuernseyという島(英国と欧州大陸の間、かなりフランス寄りに位置する)にあるSaint Peter Portという街ので、その中にある通りの名前が「Green Dolphin Street(緑のイルカ通り)」のようです。
と聞いても、実際に行ったことのある人は殆どいないし、単にド田舎の港町という以上のイメージはありませんね。ということで、単にロマンティックな名前が付いている「普通の通り」ということで、それ以上はこの固有名詞からイメージを広げるのは難しそうです。もしも興味があれば、映画を探して観るか小説を読んでみて、教えてください。
Saint Peter Port - Wikipedia
ポイント4:Green Dolphin Street supplied the setting
Lover, one lovely day
Love came planning to stay
Green Dolphin Street supplied the setting
The setting for nights beyond forgetting
愛はやってきて、すぐに消えずに「留まる/長続きする」ことになったようです。その「舞台(装置)」として「緑のイルカ通り」は最適だった、と。
「beyond forgetting」は詩的な表現ですが「忘却を越える」とはどういう意味でしょうか。「忘れられない」と訳している人もいますが、もうちょっと複雑な状況のような気もします。例えば「表面的には忘れているけど、記憶の奥底に残っている」みたいな。
ポイント5:I could kiss the ground on Green Dolphin Street
すごく短い歌詞なので、もう後半部分です。
Through these moments apart
Love come here in my heart
When I recall the love I found on
I could kiss the ground on Green Dolphin Street
どうもこの「緑のイルカ通り」は、ふたりが出会って思い出を育んだ大事な場所のようですね。今はもう一緒にいないのかもしれないけど、温かい思い出を大事にしていて、「緑のイルカ通り」にキスしちゃうくらい、だと。
つまり、どうにも具体的なイメージが湧かない「緑のイルカ通り」にまつわる恋愛についての歌、ということになります。困ったなぁ。
自分がよく知っている近所の通りをイメージして、それに置き換えて歌うしかないかもしれませんね。
「recall」は「自ら意識的に思い出す」という行為なので、主人公は時々思い出に浸っているんでしょうね。悲しいよりも懐かしい、温かい思い出な気がします。
ポイント6:Hip-Hop
この曲とHip-Hopとの関係に言及している動画がありました。
Jimmy McGriff - On Green Dolphin Street
これをサンプリングしたのが、A Tribe Called Questのコレ
A Tribe Called Quest - Jazz (We've Got) Buggin' Out
この後で紹介しているように「On Green Dolphin Street」はファンクのグルーヴにも合います。
ポイント7:様々なバージョンを聴いてみよう
Poll Winners、1957年録音
Barney Kessel, Ray Brown, Shelly Manne 音楽雑誌の各パートの人気投票1位の腕利き3人による演奏。割と淡々としています。
Miles Davis、1961年録音
何度かレコーディングしていますが、これは1961年のライブ版。
Wynton Kelly、1959年録音
気取らない感じがいいですね。
Bill Evans、1975年録音
Fred Wesley, Maceo Parker、2012年録音
ファンクのグルーヴで。
こっちは完全にファンク化、カッコいい。
ヒップホップのグルーヴで。
Paquito D'Rivera、1981年録音
ラテンビートで。
Tony Bennett、1957年録音?
ヴァースから歌っています。本歌はゆったりとしたテンポでの歌唱。
Mel Tormé、1962年録音
Ella Fitzgerald, Joe Pass、1986年録音
Anita O'Day、1963年録音
ライブ版、彼女もヴァースから歌っています。こういう曲を歌うと「姉御」っぽい個性が活きますね。
Nancy Wilson
クセが無くて聴きやすいです。
On Green Dolphin Street
Dena DeRose、2005年録音
テンポ感が独自です。
On Green Dolphin Street
Sara Dowling、2019年録音
ちょっとエキセントリックな歌い方。
Green Dolphin Street - Sara Dowling
The Singers Unlimited、1975年録音
4声コーラス。
Green Dolphin Street
George Benson、1990年録音
On Green Dolphin Street
Mark Murphy、1962年録音
「何でも歌ちゃう」系のヒトですが、ここでは普通に歌っています。
■歌詞
Lover, one lovely day
Love came planning to stay
Green Dolphin Street supplied the setting
The setting for nights beyond forgetting
Through these moments apart
Love come here in my heart
When I recall the love I found on
I could kiss the ground on Green Dolphin Street