セッション定番曲その49:Desafinado (Slightly Out of Tune)
「あなたって音痴ね」「私たち調子が合わないわね」という辛辣な歌詞の曲。ボサノバ/ジャズ・セッションでの定番曲です。歌詞の意味を歌でどう表現するか・・・
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
ポイント1:あなたって音痴ね
1959年にアントニオ・カルロス・ジョビンによって作曲された曲。比較的初期のボサノバ曲ですね。呟くように囁くように歌うのがボサノバの特徴ですが、聴き慣れない人達には「何を歌っているのか分からない」「なんか調子外れじゃない?」と思われたのかもしれず、それを逆手に取ったタイトルと歌詞になっています。
ボサノバはジャズ(とクラシック音楽)の影響を受けていて、複雑なテンションの入ったコード(和音)が使われていて、そこにメロディが乗ると、やはり聴き慣れていない人には「えっ、これってメロディ間違えて歌っていない?」と感じられるような場面もあって、それを意図的に盛り込んでいる箇所もこの曲にはあります。
・・・だから「あなたって音痴ね」と思われるように歌うのが正解、というややこしい曲。
ポイント2:3種類の歌詞
・原曲のポルトガル語の歌詞
・1962年にジョン・ヘンドリックス他によって付けられた英詞(意訳)
・1967年に別バージョンの英詞が付けられてフランク・シナトラが歌ったもの(割と直訳っぽい)
ポルトガル語は母音が多くて、歌う時には平坦な調子で歌うのに一番似合っているのかもしれません。
ジョン・ヘンドリックスが作る歌詞はあまり意味の無いもの(過去のジャズミュージシャンの逸話を連ねたようなもの)が多いのですが、この歌詞は珍しく良く出来ています。イメージの広がりがあるのと、何よりメロディへのノリが良いので歌いやすい。内容的には原曲の歌詞を元ネタにしながら、かなり物語要素を加えたものになっています。
フランク・シナトラが歌ったバージョンは、原曲の歌詞に近くて、歌に表情を付けるのがあまり上手くない(ワンパターンな)彼に合わせて言葉を詰め込み過ぎないようになっています。
歌う場合には好みでどれを選んでもよいかと。
こここではジョン・ヘンドリックス版の歌詞をベースに解説します。
ポイント3:Like the bossa nova, love should swing
Que isto é bossa nova, que isto é muito natural
歌詞の中にさりげなく「bossa nova」という言葉が出てきます。当時は「何か新しい都会的な音楽が出てきたな」という受け止められ方だったところに「これはbossa nova(新しい波/傾向)だよ」と宣言したようなかたち。
のちにステッペンウルフの「Born to Be Wild」の歌詞に「Heavy Metal Thunder」という言葉が出てきて「ヘビーメタル」という名称の先駆けになったのを想起しますね。
ポイント4:But our song of love is slightly out of tune
「私たちの愛の歌は、ちょっと調子外れみたいね」と、歌が音痴なのと愛情の交換がすれ違っていることを掛けて歌っています。
Now the song is different and the words don't even rhyme
'Cause you forgot the melody our hearts would always croon
(これまでは上手くいっていたのに)違う歌を歌い始めてしまい、歌詞もうまく韻を踏めていない。お互いに耳元で囁くように歌っていたメロディをあなたは忘れてしまったし。
「rhyme」は「韻を踏む/踏ませる」という意味。発音はシンプルに「ráim」です。
「croon」は「小声で歌う」という意味です。
ポイント5:Join with me in harmony and sing a song of loving
Tune your heart to mine the way it used to be
Join with me in harmony and sing a song of loving
We're bound to get in tune again before too long
昔のようにあなたの気持ちを私の気持ちにチューニングしてよ
私の歌にハーモニーを付けて、一緒に愛の歌を歌いましょう
調子を最高に合わせなきゃダメよ、急いでね
There will be no desafinado when your heart belongs to me completly
And you won't be slightly out of tune, you'll sing along with me
あなたが私の気持ちに寄り添って歌ってくれれば、もう調子外れになることもない、一緒に歌いましょう
「愛/気持ち」を音楽に例えながら、それが調子外れになっていく様子を描き、それを解決する為にはもう一度チューニングをやり直して、ハーモニーを合わせて奏でる/歌うことが大事、という流れの歌ですね。
ポイント6:構成
一般的なジャズスタンダード曲と比べると、ワンコーラスが68小節と長く、最初は曲の流れを追うだけで精一杯になってしまうかもしれません。
Aセクションが16小節×2、Bセクションが16小節、Cセクションが12小節+8小節。歌詞の流れで覚えると分かり易いと思います。
ジャズの人が大好きな「2-5-1」の箇所が意外と無いので、アドリブを弾く時には工夫が必要ですね。
Aセクションの最後の4小節とBセクションの最初の4小節のコード進行が同じなのが、技巧的であり、混乱し易い箇所。
詳しく解説しているブログがありました。
Desafinado アナライズ
Desafinado コード進行アナライズ+フレーズ内訳
ポイント7:どう歌うのか
最終的には個々の好みで、誰のバージョンを聴いて参考にするか決めればいいのですが、どう歌うのがこの曲に相応しいのか、セッション向きなのかをちょっと考えてみます。
例えばこれは「歌ウマ」さん代表のElla Fitzgeraldがサンバっぽくアレンジして歌ったもの。
コレはこれでアリですが、こんなに饒舌に歌われると「音痴の僕」としては少し怖気づいてしまうかもしれませんね。コレジャナイ感・・・
本家本元様の歌唱はコレ。淡々と呟くように歌うお手本。
フランク・シナトラの歌唱、ヴァース付き。
ジャズシンガーというよりは語るように歌う人なので、これはこれで意外と合っているのかもしれない。
私のお気に入りのバージョン。
シンプルな伴奏にのせて伸びのある声で、歌詞の「物語」を伝えようとしている感じ。
Julie Londonの、ラテン色強めのバージョン。色気のある彼女が歌うと歌詞の意味が変わって聞こえるのが面白いですね。
■歌詞
Love is like a never-ending melody
Poets have compared it to a symphony
A symphony conducted by the lighting of the moon
But our song of love is slightly out of tune
Once your kisses raised me to a fever pitch
Now the orchestration doesn't seem so rich
Seems to me you've changed the tune we used to sing
Like the bossa nova, love should swing
Used to harmonize to souls in perfect time
Now the song is different and the words don't even rhyme
'Cause you forgot the melody our hearts would always croon
So what good's a heart that's slightly out of tune?
Tune your heart to mine the way it used to be
Join with me in harmony and sing a song of loving
We're bound to get in tune again before too long
There will be no desafinado when your heart belongs to me completly
And you won't be slightly out of tune, you'll sing along with me
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別バージョン
When I try to sing you say I'm off key
Why can't you see how much this hurts me
With your perfect beauty and your perfect pitch
You're a perfect terror
When I come around, must you always put me down
If you say my singing is off key my love
You will hurt my feelings don't you see my love
I wish I had an ear like yours
A voice that would behave
But all I have is feelings and a voice gone deaf
You insist my music goes against the rules
But rules were never made for lovesick fools
I wrote this little song for you but you don't care
It's a crooked song oh but all my love is there
The thing that you would see if you would play your part
Is even if I'm out of tune I have a gentle heart
I took your picture with my trusty Rollaflex
And now all I have developed is a complex
Possibly in vain I hope you weaken oh my love
And forget these rigid rules that undermine my dream of
A life of love and music with someone who'll understand
That even though I may be out of tune
When I attempt to say how much I love you
All that matters is the message that I bring
Which is my dear one I love you.
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原曲
Se você disser que eu desafino amor
Saiba que isto em mim provoca imensa dor
Só privilegiados têm ouvido igual ao seu
Eu possuo apenas o que Deus me deu
Se você insiste em classificar
Meu comportamento de antimusical
Eu mesmo mentindo devo argumentar
Que isto é bossa nova, que isto é muito natural
O que você não sabe, nem sequer pressente
É que os desafinados também têm coração
Fotografei você na minha Rolleiflex
Revelou-se a sua enorme ingratidão
Só não poderá falar assim do meu amor
Este é o maior que você pode encontrar, viu?
Você com sua música esqueceu o principal
Que no peito dos desafinados
No fundo do peito, bate calado
No peito dos desafinados também bate um coração