セッション定番曲その56:I Remember Clifford by Lee Morgan, etc.
ジャズセッションでの人気曲。インストで演奏されることが多いですが、歌もあります。後付けで書かれた歌詞ですが、よく出来ている方だと思います。バラードは長くなりがちなので、敬遠されてしまうこともありますが。
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
ポイント1:Clifford Brown
誰が聴いても分かる音の良さと滑らかさ、音選びのセンスの良さ、歌心のある演奏、で人気のあったトランぺッター、Clifford Brown。1956年、25歳で交通事故により急死してしまいます。誰もが「これから」と思っていた時期にいなくなってしまった喪失感は大きかったと思います。ましてや共演経験のあるミュージシャン達にとっては。
幸いなことに短期間の活動期間に残された録音は多いので、おすすめです。
Jordu
言っても仕方ないことですが、彼が生きていればジャズの歴史は変わっていたかもしれません。マイルスがどんどん新しいことに挑戦する一方でブラウニーはジャズを「深化」させることに徹した可能性もありますね。
ポイント2:ブラウニー
生前、彼は周囲から親しみを籠めて「ブラウニー」と呼ばれていました。名前の最後を「-ie」に変えるのは愛称の定番ですね。「~ちゃん」みたいな感じかな。アフリカンアメリカンの年齢って我々にはなかなか分かりにくいんですが、彼は丸顔でおでこが広くて、ちょっと童顔でした。
ポイント3:Benny Golson
ショックを受けたBenny Golsonは翌年1957年にブラウニーに捧げたこの曲を作曲しました。彼自身もClifford Brownを「ブラウニー」と呼んでいたので、曲名を「I Remember Clifford」と付けることには躊躇があったようですが、敬意を籠めてこのタイトルになったようです。
出来た曲を周囲に聴かせたところ、最初はDizzy Gillespieが録音したがったようですが、ちょうどブルーノート・レーベルが猛プッシュ中だった若手のLee Morganが先に録音することになったようです。
Lee Morganも大きな期待をされながら、色々なトラブルで結局30代で亡くなってしまった人なので、今この曲を聴くと追悼の追悼という感じで複雑な気持ちになってしまいます。
ポイント4:John Hendricks
歌詞はおなじみJohn Hendricksによって書かれました。インストの曲を歌う人として有名な彼の書く歌詞は、わりと陳腐な逸話の羅列であることが多いのですが、この曲の歌詞はちゃんとブラウニーの「音」について語っている内容で、センチメンタルなメロディにもよく合っていると思います。バラードにありがちな変な間も無いので、意外と歌いやすい曲です。
ポイント5:イントロから歌があります
ちょっと珍しいパターンだと思いますが、イントロ部分にも歌詞が付いていて、ここが大事な導入部になっているので、一番最初しか出てこないパートですが、しっかり歌いましょう。いきなり歌い出しなので、音が取りにくい場合には「イントロのイントロ」を付けてもらうようにピアノかギターの人に頼みましょう。
I know he'll never be forgotten
He was a king uncrowned
I know I'll always remember
「king uncrowned」は「無冠の帝王」が直訳。日本語としては「実力があるのに王座につけない運の悪い人」みたいなニュアンスになってしまうので、ちょっと違うかな。「誰もが認める王様なのに、王冠を被る前にいなくなってしまった」という思いが歌われています。
ポイント6:発音のポイントなど
The warmth of his sound
Lingering long I'm sure he's still around
「warmth」は発音の難しい単語。「m」音に続いて「th」音が出てくるので、消えてしまわないように発音しましょう。後の「of」にもうまく繋げる必要があります。
「Linger」は「そこに留まり続ける/生き続ける」という意味で、ジャズの歌詞にはよく出てきます。ここは「L」音が続けて出てくるので、要注意。
The sound of each phrase
Echoing time uncountable by days
「phrase」は「fréɪz」で、の日本語の「フレーズ」に引っ張られないようにしましょう。日本語だと「レー」も「レイ」もあまり区別無しに発音されてしまいますが、そこは要注意。頭の「ph」は「f」音です。
「uncountable」は「un-count-able」と分けて考えると意味が分かりやすいですね。
Oh yes I remember Clifford
「I remember Clifford」というタイトル自体も発音が難しいですね。「remember」は頭の「R」音をちゃんと発音しましょう。「m」音も口をちゃんと閉じて発音出来るようにしましょう。「Clifford」も「L」音をちゃんと意識して発音しましょう。
So how can we say something so real has really gone away?
「real」「really」もよく出てくる割には発音が厄介な単語です。英語ネイティブかどうかの見極めに「reallyって言ってごらん」とよく使われます。「R」音と「L」音の区別をちゃんと付けて発音しましょう。難しいと思う場合には「L」音の方をハッキリと発音するのがコツです。
ポイント7:演奏と歌唱の例
Dizzy Gillespieによる演奏、陽気なイメージの強い人ですが、バラードもいいですね
作曲者のBenny Golson自身による演奏
Roy Hargroveによるスムースな演奏
I Remember Clifford
まさかの高中正義による演奏、過剰にセンチメンタルにならず、アッサリしています
I Remember Clifford
歌唱例、声量のあるRoberta Gambariniによるメリハリの効いた歌がいいですね
The Manhattan Transferによるコーラス
The Manhattan Transfer - Oh Yes, I Remember Clifford
語りかけるように歌うRita Reys
Kenny Dorhamが「歌う」バージョン、上手い歌ではないが、演奏者ならではの歌心がある歌唱だと思います
■歌詞
I know he'll never be forgotten
He was a king uncrowned
I know I'll always remember
The warmth of his sound
Lingering long I'm sure he's still around
For those who heard they respect him yet
So those who hear won't forget
The sound of each phrase
Echoing time uncountable by days
The things he played are with us now
And they'll endure should time allow
Oh yes I remember Clifford
I seem to always fed him near somehow
Every day I hear his lovely tone
In every trumpet sound that has a beauty all its own
So how can we say something so real has really gone away?
I hear him now, I always will
Believe me I remember Clifford still