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エミリオプッチのブックカバーとお嬢様と私

愛用しているブックカバーがある。文庫サイズのもので、華やかな幾何学模様が特徴的なイタリアを代表するラグジュアリーブランド、エミリオプッチのものだ。

こう書くと、それはそれは高級でお値段が張りそうな感じだが、私が使用しているのは雑誌の付録である。しかも、かなり、かなり前のものである。

ちなみに雑誌は『25ans(ヴァンサンカン)』。こちらはエレガントな読者をターゲットにしており、誌面にはラグジュアリーな世界が広がっている。

この記事を書くにあたって公式ホームページを確認してきたところ、

「平均年収2,030万円、美意識と購買意欲が高いハイライフを楽しむ富裕層読者から絶大な指示を得ています。」「名家のご令嬢をはじめ、“好き”を突き詰めて邁進する起業家やCEO・医師など、エレガントに生きる"エレ派"な方々のコミュニティの中心にいるのが『25ans』です。」とあった。


当時誌面を見ながら、セレブの世界だ……私も生まれ変わったらどこかのご令嬢になりたい、なんてよく想いを馳せたものだ。これは卑屈になっているのではなく、平民が貴族に憧れるような、幼い子供がプリンセスに憧れるようなそれと似ていた。きっとご令嬢にはご令嬢の苦労があると思うのだが、華やかな世界に憧れてしまうのは許されたい。

私は生まれが裕福ではないので、ハイライフを送る富裕層の人々とは接することなく生きてきたのだけれど、美容部員時代に初めて「お客さまと店員」という形で接する機会があった。

私が勤めていた化粧品ブランドはいわゆるデパコスブランドで、当然のことながら配属先は百貨店の店舗だった。価格帯についてはファンデーションが諭吉さん前後。この辺りで、なんとなくお高めなことを察していただけるとありがたい。

いろんなお客さまがいたが、私が担当させていただいた中で多かったのは、高所得女子、経営者、そしてご令嬢とセレブな奥さまだ。外商付き顧客もいた。そんな中で、記憶に強く残っているのが、とあるセレブな奥さまだ。

彼女(以下Aさん)は高齢だったが、透明感と艶のある肌の持ち主で、並ならぬ努力と美への投資をそこから感じられた。いつも髪がきちんと整えられており、身にまとう服は上質なものばかりで、県外から運転手付きでお店に通ってくれていた。Aさんは生まれからして生粋のお嬢様で、嫁いだ先も名家。そして彼女の話す日常は私にとっては非日常で、彼女を通して私は富裕層の世界を少しだけ知ることができた。

今思えば、Aさんと過ごした時間の中で学ぶことはとても多かった。

私が勤めていた某化粧品ブランドを気に入ったAさんは、スキンケア一式と、ベースメイク一式、ブラシ類をある時一気買いした。正直、ビビった。ビビりまくった。私の手取りの給料より軽く額が上だったからだ。そんな買い方をするお客さまは珍しかった。

Aさんは気に入ったものは適量を守って使い、アドバイスもきちんと受け入れて、定期的に通ってくれていた。遊び心のある人で、新色や限定色にも興味津々だった。自分に似合うものを知っており、余計なものは買わない人だった。

とはいえ、美容への自己投資は惜しまない人だったので、自分が良いと思ったものについては家用と別荘用とストック分を購入するような人だった。そして、効果的な使い方をとことん追及するべく、美容部員である私のこともしっかりと活用した。私は美容のプロとして店頭に立ってはいたが、どんな角度からの質問にも何かしら役立つアドバイスがひとつでも出来るよう日々勉強を重ねた。それは、美意識の高い、素敵に年齢を重ねている人たちにがっかりされたくないという気持ちからだ。だから私は、Aさんを含め、「キレイでいたい」と美を追及するお客さまにプロにしてもらったと思っている。

プッチのブックカバーをきっかけに、煌びやかな百貨店の化粧品フロアの光景や匂いが蘇ってきた。思い出は美化されるものだが、キラキラとした記憶と一緒に仕事に関しての苦くてしょっぱい当時の思い出もセットで浮かび上がってきたので、美化するにはまだちょっと早いらしい。まぁ、生きていれば苦くてしょっぱいものをなかなか消化できないこともあるよね。

雑誌の付録が進化しすぎて雑誌を買っているのか付録を買っているのかわからなくなる時があるが、私のように昔の付録をいつまでも大事に使っているような女もいるということをここに記しておこうと思う。

ラグジュアリーブランドとコラボのブックカバー、また付録で付けてくれないかな。もれなく私が買います。


プッチのブックカバー。柄はランダムだったと記憶してます。


読んでる途中の魔術師マーリン。FGOではいつもマーリンにお世話になっています。

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