見出し画像

居心地のよい「本の森」―神保町書店探訪記「東京堂書店」

 本屋を語らずして、神保町のなにを語ることができるのか。
 ということで、今回は、神田神保町界隈でわたしがしばしば足をはこんでいる本屋について紹介したいとおもいます。

 神保町といえば、三省堂書店本店がそのランドマークかとおもいますが、その裏手、靖国通りをはさんだすずらん通りに、この東京堂書店はお店をかまえています。

画像1

 外観は写真のとおり。1階部分は深い緑いろの外装で、赤い庇が美しいコントラストを生んでいます。
 2011年のリニューアル時に「Paper Back Cafe」が併設され、まるでここだけニューヨークの一画であるかのようなおしゃれな存在感をはなっています。

 お店は3階建てになっており、大型の新刊書店にくらべれば、店舗面積はちいさいです。ですが、「大きすぎずちいさすぎず」のその広さが、個人的にはとても居心地よく感じられます。
 
 東京堂書店を語るにあたってまず外せないのは、1階のレジ正面に設えられた、「"知"の泉」(通称「軍艦」)とよばれる新刊コーナーです。
 なにか本を読みたいけれどなにを読めばよいか見当がついていない、というばあい、この「軍艦」にまず足をはこんでみれば、そこにぎっしりと居並んでいる新刊たちのまばゆい砲撃に、すぐに心を打ちぬかれることまちがいありません。

画像2

 とはいえ、東京堂書店の個性は、その「軍艦」だけにあるのではありません。
 おとずれるたびにいつも感銘をうけるのは、かずかずの魅力的な「フェア」がおこなわれていることです。

 1階であれば、入口をはいった左手の壁ぎわに、2階、3階であればそれぞれ、エスカレーターをのぼったちょうどその正面に、つい足をとめずにはいられない特集コーナーが設けられています(フェアのための本棚は、全体で11か所もあるという話も)。

 これらフェアからは、だれよりも書店員さんたちが、本というもの、あるいは、本をつうじた空間づくりというものを楽しんでいるさまがびしびし伝わってきます。

 先日おとずれたさいは、1階では、「詩のことばとともに」と題して、鎌倉の出版社である「港の人」の書籍を紹介するフェアが開かれていました。
 なかでもわたしの目についたのは、戦後日本の詩壇を牽引し、その後半生を鎌倉で送った詩人である、田村隆一の『言葉のない世界』の復刊本でした。

 言葉なんかおぼえるんじゃなかった
 言葉のない世界
 意味が意味にならない世界に生きてたら
 どんなによかったか(「帰途」より)

「言葉」というものへの逆説的な愛憎をたくみに表現したこの詩をはじめて読んだときの、胸を打ちのめされるすがすがしい感覚をいまでもおぼえています(そうして田村隆一の詩を読み漁った一時期がありました)。

 東京堂書店には、「下り」のエスカレーターがなく、階を降りるときは階段を利用しなければなりません。
 ですが、その階段にも、客の足をとめさせずにはおかない工夫が凝らされており、このときは、ここでも、写真家の山田愼二による田村隆一の写真展がおこなわれていました。

画像3

 ちなみに、こちらが東京堂書店のブックカバー。なんだか、このカバーのついた文庫本を読んでいるだけで、小粋な読書人になった気分になれます。

画像4


最後までお読みいただき、まことにありがとうございます。いただいたサポートは、チルの餌代に使わせていただきます。