『猿の惑星/キングダム』:シリーズ累計10回目の焼き直しは美味いか
『Kingdom of the Planet of the Apes』(2024年)★☆・・。
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公開日:2024年5月8日(北米)
公開日:2024年5月10日(日本)
物語のステークスがわかりにくい。
動機の変遷はわかっても、キャラクターの原動力が致命的に定まらない。主人公の類人猿ノアと人間の少女メイの目的が作中の大半で不明瞭なまま進むからだ。
類人猿は「村を救いたい」「成長したい」「人間を救えと言われて助ける」「人間を利用する」「信じて失敗する」。
少女は「主人公にまとわりつく」「謎の目的がある?」「類人猿を助ける」「類人猿を利用する」「もと来た場所へ帰る」。
短期的なゴールはわかるが、互いの価値観との相違をはっきりと描いていない。それもこれも、物語後半で種明かしをするために肝心な部分を差し押さえてしまっているのが原因。
途中で出会う友人の教えも、謎めいた人間の少女の言動も、何に合意して協力しているのか、どの地点から対立しているのか、見定めるだけの材料が提供されない。結果、開始20分頃には関心を呼び込む引力を失う。残るのはプリクエル三部作『創世記(ジェネシス)』(2011年)、『新世紀(ライジング)』(2014年)、そして『聖戦記(グレート・ウォー)』(2017年)で作り上げたCG技術と、ことあるごとに口にはするが登場はさせられない、前作までの主人公の大きな影。昔取った杵柄、焼き直し、酒粕のお料理への転用。
良点
良点を探るのは容易い。Weta DigitalのCG映像はもはや超級。類人猿の表情や体の表現は緻密。ワールドビルディングにも手が込んでいるだけに、世界観から美術から、各ショットのレンズフレアに至るまで、光とディテールの使い方は絵作りの最先端。エクスポジションショットの美しさといったらない。
それだけに情感はあっても深みに欠ける。これはウェス・ボール(『メイズ・ランナー』シリーズ)の演出に起因するのか?中途半端に言葉を話す猿のパフォーマンスが、度を過ぎて鼻につく場面も目立つ。使い方が節操もないから気になるのだろう。口数が少ない代わりに手話を多用した前三作までの現実感と、「幾世代後」のこの世界とでは説明のつかないバランスだ。
ジョシュ・フリードマン(『宇宙戦争』『アバター』シリーズ)の脚本が、構造上の役割しか果たさなかった可能性も高い。激しいアクションと美しい世界観描写とは裏腹に、サスペンスと火急性は目減りしていく。
ともあれフランチャイズの蜜を絞りに絞った続編として、類似品を見るには十分な一本ではある。本作のクリフハンガーは、よりスケール感を押し出した類人猿vs人間の戦いを宣告している。そのときのための事前学習だと思って履修するのも良いかもしれない。
ヴィジョンはある、とは言える。
実写版『ゼルダの伝説』の監督として内定しているウェス・ボールの系譜をたどる一本としても資料価値がある、とするのも良きかな、良きかな。
(鑑賞日:2024年5月18日@Regal Edwards Aliso Viejo)