『MoviePass, MovieCrash(原題)』:恥を知れウォール街
『MoviePass, MovieCrash』★★・・。
公開日:2024年5月29日@MAX / HBOにて展開(北米)
公開日:未定(日本)
あらまし
2016年から2019年にかけて全米で一世を風靡した、映画館での「映画館・定額制・見放題サービス」ー。その名もMoviePass(ムービーパス)。
その隆盛と没落の裏側を、経営者や設立当時の幹部、サービスセンター従業員、投資家、アナリストなどの専門家へのインタビューを通して解き明かすドキュメンタリーが、米ディスカバリー/ワーナー系ネットワークのHBOで制作・放送・配信された。
アメリカ在住でない方にとってはなんのことやら、という題材なので、おそらく日本で展開されることはないだろう。でも、その存在のインパクトをオンタイムで体感した身としては現代の定額制サービス事情に絡む重要な1ページだと言いたい。
そこで前後の事情については、別立てて運営しているマガジンに記したので、お時間ございましたらご一読ください:
なお本稿は作品の内容に限定した答え合わせなので、ご理解のほどを…。
答え合わせ
正面から隆盛と衰退を描いてはいる。
けれど、この一本がドキュメンタリーとしてインタビュー対象やラインナップに十分な仕込みをしていたかというと、そうとは言いにくい。わかりやすいことは確かだけれど、やはりテレビらしいスケールの小ささを感じる。あれだけ情けない落ち方をしたサービスだから、それは仕方のないことなのかもしれないけれど。
MoviePassはもっと大きな文脈で語れるはずだから、オンタイムで体感した人間からすると、より深い解剖と展望を聞きたいと思うだけに、物足りない。
でも。これを観れば、ことの顛末はよく理解できる。華やかな超低価格見放題サービスの展開と、爆発的な成長、そして度重なる失策からの体制変革、負け戦へと転じていく旗色の変化、そして内側からの瓦解。わかりやすい。
その上で、ふたつの事実が明らかになる。すなわち、
本当の創始者は有色人種の2人組だったこと。そして、
詐欺師まがいの白人支配階級たる年配の男ども2人が、会社を乗っ取った上、タイタニックのごとく氷山に突っ込んで船を沈めたこと。
この「胸くその悪さ」が本作のカギだ。
物語の「核」
言ってしまうと、このドキュメンタリーが追いかける映画観賞定額サービスの運命は、この映画が語るテーマの足がかりに過ぎない。核となるのは「経営と投資の世界にも根深い差別と、金と名声に目のくらんだ恥知らずどもは、いつも機会を狙ってのさばっている」という実態だ。
『ソーシャルネットワーク』
『スティーブ・ジョブス』
『Air/エアー』
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』
『ブラックベリー』
『令嬢アンナの真実』
『テトリス』
『WeCrashed 〜スタートアップ狂想曲〜』
『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』…。
いまも昔も成功譚が語られることの多いジャンルだが、金目と欲目と名声に眩んだ輩が耳を疑うほどの愚行を繰り返す、人間の無様な姿も絶え間なく描く。
そして、そういった連中には概して、罪は認めさせられても罰は受けないことも、よくよく飲み込まされる。この世で因果応報が成立するのは、物語の世界の中だけなのだな、という実感も湧く。
MoviePassの事例は実に世知辛い。有色人種と白人社会には、どこまで行っても埋まらない溝があるということが、よくわかる。この世界の白人優位社会とウォール街の暗部には不用意に近づいてはならない。この一本を見る気力と根気のある方は、筆者と同じマイノリティならなおさら、そう感じることだろう。
だからこそ、映画の終幕で語られる光明に期待することになるだろうことも確か。天罰よ下ってくれ。そしてMoviePass 2.0よ、頑張れ。(筆者がサービスを利用することになるかは未定だけれど。)
(2024年5月30日@MAX)