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『マッドマックス:フュリオサ』:前作とのセットで味わう前日譚

『Furiosa: A Mad Max Saga』★★★☆。
IMDb | Rotten Tomatoes | Metacritic
公開日:2024年5月23日(木)(北米)
公開日:2024年5月31日(金)(日本)

激しい。組み立てがいい。

『怒りのデスロード』よりも、いい意味で冷静な作り方なのだと思う。90年代以来、ミラーにとって数十年ぶりの『マッド・マックス』だった前作にはすべてが濃縮還元されていた。今作は物語構成が根本から異なる。テーマをあらわす副題付きの全5部。

フュリオサの前日譚は、前田真宏さんをはじめとしたアーティストたちがコンセプトを描き上げ、本来はアニメ作品として『怒りの〜』に合わせて展開される予定だった。そのことを言っているポッドキャスト「Happy, Sad, Confused」のインタビューが、良い。

そういえば、技術的にも興味深いところがある。フュリオサの子供時代を演じているアリーラ・ブラウンと、若者時代のアーニャ・テイラー・ジョイの成長時の顔がとにかく似ている。と思ったら、似せて見えるようにCGでブレンドしているそう。AIという情報もあるので空おろそしいのだけど。成人時のフュリオサの声がシャーリーズ・セロンのフュリオサの声と似ているのは、純粋に役者のパフォーマンスのなせる技なのかも。

切り離せないけど「別物」

『怒りのデスロード』とは切っても切り離せないのだけど、別物として見たい。そのまま見るとサイドストーリー感を抱いてしまう。そもそもの成り立ちがそうだし、そこは言いはじめてもはじまらない。

変わらずな描き込みと世界観構築に、しっかり浸ることに徹した方が楽しめる。前作では表現しきれなかった世界観を一つずつ紹介していくのも新鮮。グリーン・プレイス、ガスタウンに、ブレット・ファーム。イモータン・ジョーの軍勢に加わるのは、クラス・ヘムズワース演じるディメンタスとその一派。悪役らしくない悪役なのが逆に、肩の力を抜いていて見やすい。

『怒りの〜』と毛色の違う『フュリオサ』を好きになれるのは、近年のコングロマリット型フランチャイズ作品のやり口に流されない態度にあるんだと思う。やたらと点と点を繋ぎたがる「ユニバース病」のようなものが蔓延している昨今だから、いい意味で連続性を使い捨てにする物語だとか、前作の再現ばかり狙おうという下心がない。『スター・ウォーズ』やMCU、旧作を復活させた『ゴーストバスターズ』やその他の「昔取った杵柄」組と違うのはそこ。

『怒りの〜』に直結する物語として、二作品をセットにして観るのが吉。それにしても、エンドクレジットで『怒りの〜』のハイライトを見せる演出は余計。あれはスタジオ側の野暮な要求だったと思うことにする。

北米興行で苦戦。夏の興行に業界ごと不振

なお余談。北米興行では出だしで苦戦している。メモリアルデイ(戦没将兵追悼記念日)の連休で$25.6M(およそ40億円)という数字は、製作費$168M(同264億円ほど)に比すると回収には遠い。

前日譚は続編と比べると客足を期待できないのが常。とはいえそもそも『怒りの〜』自体、興行的に「大成功」とも言えない数字だった(初週$45.8Mは控えめな数字)。作品の出来は数字と正比例ではない。『フォールガイ』含め、今年の北米興行は不振続きな模様だ。

(鑑賞日:2024年5月26日19:00〜@Regal Theaters Irvine Spectrum)

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