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不遇の傑作『ブレードランナー2049』

★★★☆。

リドリー・スコット監督の『ブレード・ランナー』が公開されたのは1982年。制作費は超過を重ねて28億円(1 ドル100円換算/為替度外視)にのぼったが、オリジナルが公開5週間で計上したのは23億円に過ぎなかった。しかし当年のアカデミー賞では美術賞と視覚効果賞でノミネートを勝ち取り、映像面と思想面ではカルトな人気を醸成した。

その後7バージョンもの「再編集版」が生み出されるほど「味わい深さ」を評価された同作の続編が、35年の刻を経て、ワーナー、コロムビア、アルコン・エンターテイメントを含む数社により制作。監督に『ボーダーライン』『メッセージ』のカナダ人監督、ドゥニ・ヴィルヌーヴ。撮影監督に老将ロジャー・ディーキンス。名コンビが、ハリウッド屈指の「古典作品」を料理した。

一作目に続き、本作も興行的に失敗のレッテルを貼られている。制作費150億円と目される本作は初週32.7億円と奮わず、公開6週目現在で累計88億円。全世界興収で見ても、35年を経てフランチャイズとなった作品は80億円の損失を被ると報じられている。 大作にのしかかる配給・宣伝費の重みは大きい。

[物語] 

一作目から30年後の、2049年。退廃的未来都市、ロサンゼルス。新型レプリカントでブレードランナーのK(ライアン・ゴズリング)は、各地に身を隠す規格外のレプリカントたちを探しては「解任」する任にあたっている。だが、郊外のプロテイン農場で任務を果たした後、Kはレプリカントと人間の境界線に疑問符を投げかける、重大な痕跡を「発見」。自身の不可解な記憶に翻弄されながら、Kは捜査に乗り出す。

[評価] 

真に芸術的な作品であるだけに、プロダクションと配給元が巨額の赤字を記録している現実と向き合わなければならないジレンマ。穴の開いた財布から泣けなしの制作費を絞り出したインディペンデント映画なら、「アカデミー賞狙いのアートハウス作品」のラベルを貼り付けて処理することができた。「誰も観ていない名作」と茶化しておけば、大抵の業界人もスルーできる。しかし、損失額が数十億単位となれば話は別だ。十数年後、セカンド、またはサード・ウィンドウでの収益が「興行が全てではない」ことを証明しなければ、本作に、そして映像芸術信者たち一般に救いは訪れない。

強烈な続編だ。一作目の脚本の草稿から引用されたと言われる冒頭のシーンは、同作がオリジナルに払う敬意と、同時に保とうと努めた独自性を見せつける。一方で片目の寄りのショットや、荒廃した機械世界を俯瞰するトラッキング・シークエンス、そして未来都市・ロサンゼルスの街中を描く美術の一つ一つは、一作目との連続性を強調する。軸を外すことなくアップグレードされたSF世界は見ていて飽きることがない。

新しい要素の全てを、それぞれ意味深く使い切っていることが物語の最大の特徴だ。新ブレードランナーたる主人公「K」、その慰み者のホログラム、ジョイ(アナ・デ・アルマス)、レプリカントの新設計者ニアンダル・ワレス(ジャレッド・レト)とその部下ラヴ(シルヴィア・フークス)ら登場人物たちのほとんどに、それぞれ作品の中核部分と絡む象徴性がある。

ポイントは、それらがプロットを前に進めるための具体的な行動や事件で、シーンに複数回、直接的な影響を与えることだ。セットピースや小道具などには尚更のこと、意味深さが押し出されている。いずれも、「人間とはなにか」というシリーズを通した根底的な問い、あるいは未来世界の作り込みに複数のレイヤーを加える役割が与えられている。これは、ともすれば一作目よりも丁寧に、プロットへと落とし込まれている。スケールの大きさの割に、無駄が少ない。

とはいえ、ロビン・ライト演じるジョシに小物感が垣間見えるシーンがあることや、ウォレスの登場シーンには冗長な印象が拭えなかったことは指摘してもいいのだろう。なにせ、総尺の長さを「失敗」の原因として位置付ける者もある。しかし、衝撃的な濡れ場の演出ひとつをとっても、続編らしからぬオリジナリティに溢れた映画だ。あれほど無機質な世界を描いているにもかかわらず、鍵となるシーンには靄、闇、雨、太陽、そして海など、自然との密接なつながりが対照的に盛り込まれていることも見逃せない。

一作目以上にハリウッド的でなく、しかしながらハリウッドでしか作れなかったであろう、不遇の超大作。

[クレジット]

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
プロデュース:アンドリュー・A・コソーヴ、ブロデリック・ジョンソン、バッド・ヨーキン、シンシア・サイクス・ヨーキン
脚本:ハンプトン・ファンチャー、マイケル・グリーン
原作:フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』
撮影:ロジャー・ディーキンス
編集:ジョー・ウォーカー
音楽:ハンス・ジマー、ベンジャミン・ウォルフィッシュ
出演:ライアン・ゴズリング、ハリソン・フォード、アナ・デ・アルマス、シルヴィア・フークス
製作:ワーナー・ブラザース、アルコン・エンターテインメント、コロンビア映画、スコット・フリー・プロダクションズ、トリドン・フィルムズ、16:14 エンターテインメント、サンダーバード・エンターテインメント
配給(米):Warner Bros.
配給(日):ソニー・ピクチャーズ
配給(他):ソニー・ピクチャーズ
:163分
ウェブサイトhttp://bladerunnermovie.com/

全米公開:2017年10月6日
日本公開:2017年10月27日


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