3. Joel Meyerowitz CAPE LIGHT BULFINCH
ある本とある音楽が結びついていることがある。この場合、音楽は曲というよりアルバムで、そういう意味では幸せな時代だったのかも知れない。僕の古本体験として入り口近くにあるのが江戸川乱歩だが、江戸川乱歩はそのとき夢中になって聴いていたBeach BoysのPet Soundsと共にある。Pet Soundsも僕には60年代や70年代のアメリカ音楽の入り口だった。Pet Soundsの音に触れると、陰獣や芋虫などの映像が頭の中に浮かんでくる。当時ブックオフに多く並んでいた創元推理文庫を中心に読んでいたから、僕にとって江戸川乱歩といえばこういったラインナップだった。Beach Boysには迷惑な話かも知れない。
村上春樹のねじまき鳥クロニクル、海辺のカフカと共にあるのは、同じくBeach Boysの20/20、Friends、Sunflowerで、物語の映像と、3枚のアルバムの音像と、当時乗っていた東武東上線の車窓からの風景が思い浮かぶ。けれど、ねじまき鳥クロニクルとこの3枚のアルバムはそれぞれにとても好きなものだったから、その後何度も読み返したり聴いているうちに、結びつきが弱くなった。こういうことはよくある気がする。それは、須賀敦子の河出文庫の全集を読んでいるときに聴いていたキリンジのFineも同じことだったが、Fineの中でも特に自分にとって特別な曲であるフェイバリットは、今でもまだ須賀敦子が描くイタリアを呼び起こす。逆も同じで、須賀敦子の文章を読み返すと、曲のなかの、ブーツでメロディを奏でるさ、という歌詞があたかもイタリアの石畳を歩いているような気持ちで思い出される。
けれど、いつまでも本と音楽が結びついていることがあって、それがこのCAPE LIGHTとBen WattのNorth Marine Driveだ。本を開くと、というか本について思い出すと一曲目のイントロが頭の中で鳴り出し、音を聞くとあの海辺の写真を思い出す。North Marine Driveというと多くの人にとっては冬の海岸のイメージかも知れないが、僕にとっては肌寒い夏の日の印象がある。星野道夫は著書の中で、都会で暮らす生活の中で、ふとこの瞬間にもアラスカ沖で鯨が潮を吹いているんだと想うことの大切さを書いていたが、それと同じ意味で、まさに今、どこかでCAPE LIGHTを開いている人がいて、どこかでNorth Marine Driveを聴いている人がいて、どこかにあの写真に写った海岸にいる人がいると思うと、どこからか涼しい風が吹いてくるような気がする。
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