12. レイモンド・マンゴー 就職しないで生きるには 晶文社
本が本を呼ぶとはよく言ったもので、ある本を読むことで他の本を欲しくなったり、他の本との繋がりを知ったりすることがある。それは著者や内容に関してだけではなく、出版社や編集者、翻訳者など様々だが、僕の場合は装丁・装画を理由とすることが多い。
装丁をまとめた本は大好きで、平野甲賀、和田誠、花森安治、菊池信義など、眺めているだけであれもこれも欲しい本が出てくることになるが、なかでも圧巻だったのがみずのわ出版から出た「佐野繁次郎装幀集成」だった。それも著者というか集めた人である西村さんという方が普通の勤め人ということで、よくもこれだけ集めたものだと思うけれど、集められるかは別として、多くの古本好きが似たような心境や状況ではあるだろうと思う。
例えば僕の場合は安西水丸さんで、まだブックオフがバーコードのない本も多く売っていた頃に、文庫本を中心に探し回り、安西水丸装丁・装画であれば、まったく興味のない内容のものも買った。ある時、北川悦子の「ロングバケーション」の単行本を買おうとした時に、はたと気が付いてさすがにやめておいた。ただ、あの貝殻を散りばめた装丁は、今見ても素敵だと思う。
というように、装丁・装画には人の心を惑わせる何かがあると思うが、自分の好きなデザイナー・イラストレーターが自分の好きな作家の本を手掛けている場合は、その本を二重に好きになる理由になる。それはもちろん村上春樹と佐々木マキ・安西水丸・和田誠だろうし、晶文社と平野甲賀はそれだけで最強の組み合わせになる。ただ、多作な人なら色々とその組み合わせを探すことができるが、手掛けるものが少ないことも多い。それは僕にとっては原田治さんで、自著以外の原田さん装丁の本でいうと、自分の興味の範疇にある本は残念ながら無い。それでも山際淳司の「夏の終わりにオフサイド」は、本の佇まい全てが好きで手放せずにいる。
イラストレーターのなかでも特に好きなのがたむらしげるで、探しているなかで持っていなかった「フープ博士の月への旅」をこの間見つけてとてもうれしかった。この本や、青林堂から出たもう一冊「スモール・プラネット」はクレジットこそないが自身で装丁しているはずで、他の装丁本もありそうなものだが、いつか偶然に手に取った畑中佳樹「誰もヒロインの名を知らない」以外を知らない。
装画では、手にしてずいぶん後になって知ることになるが、このレイモンド・マンゴーの「就職しないで生きるには」がある。この本は僕の古本人生でも最初の方の一冊だったが、たむらしげるを好きになった後で、この画もそうだったのかと気付き、内容も含めて手放せない本になっている。旧版の画はオレンジ色で、持っている新装版は黄緑色となっており、本当なら旧版に買い替えたいところだが、軽やかな黄緑色がこの本の印象となっているため、新装版の方を持ち続けている。
「就職しないで生きるには」は晶文社のシリーズとなり、有名な「ぼくは本屋のおやじさん」をはじめ何冊か出ているが、パイドパイパーハウスにまつわることを書いた「輸入レコード商売往来」の装画が原田治さんと最近知って驚いた。画風が他とは違うが、言われてみれば確かにそうだった。これもいつか手に入れなければと思いつつ、また楽しみが増えたと感じるのは、古本好きならではの幸せだろう。