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「なぜなぜ分析」が攻撃性を持つ理由とは?

少し真面目な話題です。

「なぜなぜ分析」

「なぜなぜ分析」という言葉を聞いたことがありますか?
これは、問題の根本原因を探るための手法で、トヨタが開発したとされる方法です。問題が発生したときに「なぜ?」を5回繰り返して尋ねることで、表面的な原因ではなく、根本的な原因を見つけることを目指します。
しかし、この手法が広がるにつれ、「なぜ?」という問いかけが時に攻撃的なものに変わってしまうというテーマがたびたび話題に挙がります。

「なぜなぜ分析」を扱うためにはスキルが必要

例えば、仕事でトラブルが発生したとしましょう。あるプロジェクトが期限に遅れてしまった場合、「なぜ期限に遅れたのか?」と問いかけます。すると、「作業が遅れたから」という答えが返ってきます。さらに、「なぜ作業が遅れたのか?」と続けると、「担当者がミスをしたから」などといった答えに行き着くことが多いのです。ここで問題となるのは、安易に「担当者のミス」という個人の責任に帰着させてしまうことです。

いくつか例を挙げてみます。

具体例1:プロジェクト遅延のケース

ある企業で、大規模なプロジェクトが納期に遅れてしまいました。プロジェクトマネージャーが原因を探ろうと、「なぜ期限に遅れたのか?」と尋ねました。担当者からは、「開発が遅れたからです」と返答がありました。

ここでさらに「なぜ開発が遅れたのか?」と掘り下げたところ、「新しい技術の習得に時間がかかったからです」という答えが返ってきました。しかし、プロジェクトマネージャーはこれに満足せず、「なぜその技術をもっと早く習得できなかったのか?」と続けます。最終的には「担当者のスキル不足が原因だ」という結論に至り、担当者に対する批判が強まってしまいました。

このケースでは、プロジェクト遅延の真の原因が適切に分析されず、個人のスキル不足という表面的な問題に責任が押し付けられてしまいました。
実際には、新しい技術に対する教育体制の不足や、過密なスケジュール設定が原因だったかもしれません。しかし、「なぜ?」を繰り返す過程で、真の原因にたどり着くことなく個人の責任に帰着してしまったのです。

具体例2:製造業でのトラブル

製造業の現場で、ある製品の品質が基準を満たしていないという問題が発生しました。品質管理チームは「なぜこの問題が起きたのか?」と問いかけました。

現場からは「材料の品質が悪かったからです」との答えが返ってきました。さらに「なぜその材料を使用したのか?」と尋ねたところ、「仕入先がコストを抑えるために安価な材料を選んだからです」という返答がありました。

ここで「なぜその仕入先を選んだのか?」という質問に対して、「〇〇さんの判断が悪かった」という結論に至りましたが、実際には品質管理のプロセスが不十分であったり、適切な品質基準が設けられていなかった可能性もあります。

この例では、「なぜ?」を繰り返す過程で本来注目すべきプロセス改善のポイントが見逃され、結果として経営陣の判断ミスとして処理されてしまいました。

具体例3:顧客対応の問題

サービス業で、顧客からのクレームが頻発しているという問題が発生しました。管理者は、「なぜクレームが多いのか?」と問いかけました。

スタッフからは「顧客対応に時間がかかっているからです」という答えが返ってきました。「なぜ時間がかかるのか?」とさらに掘り下げると、「対応マニュアルが複雑で、スタッフが混乱しているからです」と返答がありました。

ここで管理者は「なぜマニュアルが複雑なのか?」と続けた結果、最終的に「スタッフの理解力が足りないからだ」という結論に達しました。しかし、実際にはマニュアルの作成プロセスが問題であり、スタッフがその複雑なマニュアルに従わざるを得ない状況に追い込まれていたのかもしれません。

この場合、問題の本質に目を向けずに個人の責任に帰着することで、組織全体としての改善の機会を逃してしまいました。

「特定の何かが悪い」その中でも「○○さんが悪い」という簡単な解決策

本来の「なぜなぜ分析」は、こうした個人攻撃になることを防ぐために工夫されています。

しかし、広く普及した結果、形だけの「なぜなぜ分析」が多く見られるようになりました。特に、QC手法(品質管理手法)とともに普及したことで、表面的な原因探求に留まり、個人の責任に押し付けるケースが目立ってきたのです。

では、なぜこのような現象が起きるのでしょうか?それは、「なぜ?」を適切に使うために必要なスキルが不足しているからです。「なぜ?」を効果的に使うためには、次のような能力が求められます。

  • 観察力:状況を正確に把握し、何が本当の原因なのかを見極める力。

  • 言語化能力:観察したことを言葉で正確に表現し、他者と共有する力。

  • 抽象化力:具体的な事象を一般化し、根本的な問題を見つけ出す力。

  • 語彙力:物事を細かく切り分け、適切な言葉で説明する力。

これらの能力が欠けていると、「なぜ?」を繰り返す過程で簡単に個人の問題に帰着してしまうのです。そして、その結果として「なぜ?」が攻撃的な意味を持つようになり、相手の精神を追い詰める手段になってしまうことがあります。

まとめ

結論として、「なぜ?」を使う際には、その背後にある目的や方法を理解し、適切に活用することが重要です。
「なぜなぜ分析」は、個人攻撃のためではなく、組織やシステムの改善を目指すためのものです。その本質を理解し、慎重に活用することが求められます。

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