畏れを知らぬ匿名の人
Xのクラオタ界隈の一部が炎上している。
もともとは二期会の「影のない女」の感想を巡るクラオタ2名と音楽ライターの対立で、そこに音楽評論家が助け舟を出したことで火に油を注ぐ結果となった。
そのポストはすでに消されているが「匿名の人の意見は相手にしなくていい」といった趣旨だったようだ。
私はクラオタ2名と音楽ライターのやりとりをすべて見て(こういう問題に言及するときに一次資料にあたるのは大事)、ライターの方に分があると思った。
それについて書くと長くなってしまうので、今回は「匿名の人の意見は相手にしなくていい」という考え方について考えてみたい。
無論これは友人の音楽ライターをフォローする目的で発せられたものだろうから、その文脈で読むのが適切だが、実際の発言が今となってはわからないので、発言者と切り離した状態で是非を考えてみたい。
匿名の人の意見は相手にしなくていい
この意見に一部のクラオタはやけに憤っている。
私は逆の立場で、ごもっともだと思った(便宜上以下の文章では、実名顔出しの本業の書き手をプロ、匿名かつ覆面の書き手を素人と表記する)。
以前、街中でお菓子の荷台を曳いてる人に「お菓子買いませんか?」と聞かれたことがある。気持ち悪くて買わなかったが、プロの書き手は店舗を構えているお菓子屋みたいなもの。何か問題が起きたときに逃げられない立場である。
顔と本名は一生ついて回る。一部の素人はそのことを軽視しすぎではないだろうか。
素人が発信するなと、プロが言ってるわけではないだろう。
単純に「土俵」が違うのだ。匿名は匿名同士で交流を楽しめばいい。
それなのに対等の感覚でプロに絡むから失礼なのである。
では私自身まったくプロの言説に絡んでこなかったかというとそうでもなく、最近では「聴くだけの人間が何いってんだ?」(だっけ?)と書いた歌手に対してはスクショ引用で「音楽ライターや音楽評論家に対して言ってるならすごいよね😅」って書いたり、ユジャ・ワンがソリストのコンサートで「Xユーザーはサングラスの感想ばかり書いてる」(文意)とブログで文句を書いていたライターに対しては、彼の文章を引用しつつエアリプで疑問を呈したことはある。
なんだ!お前もやってんじゃんと言われればそうだが、今回悪質だと思ったのは音楽ライターを「おばちゃん」呼びしたクラオタがその後延々とX上で彼女と論戦していたからだ。私はまったくフェアではないと思った。
Xでエゴサをする有名人はかなり多い。最近は減ったが、昔は名前を出したアーティストにいいねをもらうことがよくあった。皆さん結構チェックしているのだ。
Xにおける大きなストレスは、交通事故的に自分の悪口が目に飛び込んでくることである。これは心臓に悪いし、心の準備ができてないから傷つく人は多いはず。
そこで一つの方法がある。ブログである。
私は佐渡裕や久石譲に批判的な記事を書いたことがあるが、幸い炎上しなかったのはブログだったせいもあると思う。
これがXだったら拡散のスピードが異常に速い。先日バズった駅ピアノのポストなんて1092万回表示である。このブログで最高のアクセスは佐渡裕の記事で累計6500回。普通はそんなもんである😅
ブログで書くメリットは、読み手にとって心の準備ができることだ。タイトルを見て否定的な印象なら読みに行かないという選択もできる。
「批判的な内容でもかまわない」と思って読みに行くのと、タイムラインに突然悪口が飛び込んでくるのでは、心のダメージが違う。
ちなみに、私はこのブログを批評とは思っていない。GoogleやAmazonのレビュー、口コミの感覚である。
素人の口コミではあるが、それ相応の価値はあると思っている。
ただ、お金をもらって書く文章は全然価値が異なる(私も原稿料をもらった経験はある)。
プロの書き手のXはプロの余技というか、おこぼれみたいなものだと思っている。
Xで書いてるからといって素人と同じではない。
音楽家に敬意を払えるオタクは多いのに、なぜ批評家には敬意を払えないのだろう。批評の価値の低落が原因かもしれない。
いまは吉田秀和の批評を読む人は減っただろうし、文芸批評も昔ほど読まれない。プロに対して「自分たちと同じ文章書き」といった幻想を抱く素人が増えるのも無理はない。
音楽家は「演奏する側の苦労も知らないで好き放題言いやがって!」と批評家もふくめた聴き手に対して一度は思うだろうし、批評家も「署名入りの批評がもたらす影響の怖さも知らずに好き放題言いやがって!」と素人の駄文に対して思うはずだ。
プロと素人の境界線は存在する。
プロの批評に意見するなら、まずはブログで書いたらどうか。
ブログならまとまった分量の文章が提示できるし(細切れのポストで長文を読ませるのは失礼)、古い記事も検索しやすいから過去にどんな発言をしたかもわかりやすい。
何よりブログは大量の文章を展示していて「店舗」に近いので、逃げられない。「前に書いてたことと矛盾してますよ」とすぐに言われてしまう。Xはメモ書きみたいなものだ。
繰り返すが、実名顔出しのプロと匿名覆面の素人は決して対等な立場ではない。
自分のフィールド(ブログ)で批判を展開するならともかく、SNSで直接絡みに行って「実名か匿名かよりも発言内容が大事」みたいに言ってるのは滑稽でしかない。
「実名顔出しで発言する」ということの覚悟が、匿名覆面のぬるま湯に浸りすぎた人にはもはやわからないのだ。
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