代役の神様ジョン・アクセルロッドとN響の「くるみ割り人形」
NHKホールで、NHK音楽祭を聴いてきた。
チャイコフスキー:バレエ音楽「くるみ割り人形」作品71
指揮:ジョン・アクセルロッド
児童合唱:東京少年少女合唱隊
先日書いたが、ウラディーミル・フェドセーエフの代役としてジョン・アクセルロッドが振ることになった。
アクセルロッドは一昨日まで二日間、仙台フィルの定期演奏会を指揮していた。
昨日はリハーサルしたのだろうか? タイトなスケジュールなのによく引き受けてくれたものだ。
コロナ禍のピークのときは来日中止になった欧米の指揮者の代役を次々と務めたアクセルロッド。
日本クラシック界の救世主と言ってもいい活躍ぶりだった。
本来ならこんな緊急登板でなく、通常のリハーサル時間を経たコンサートで聴きたかった。
チャイコフスキーなら交響曲第4番や第5番の方が合ってるような気もした。
さて、今回はどうか。
コンマスは久々にマロさんだった。大きな拍手が沸き起こる。
第1幕の後半、児童合唱団が登場する少し前までは音楽の流れに硬さがあった。
会場は広さのわりに静かなのに、オーケストラの緊張感がそれほど感じられず、特別感がなかった。
ノセダのショスタコーヴィチのときはもっと緊張感があった。
NHK音楽祭というより、都民芸術フェスティバルや初心者向けの名曲コンサートっぽいノリに感じられた。
会場の多くはフェドセーエフを期待していた人たちだろう。
楽団員もそうであったかもしれなく、消化試合なのか?と感じなくもなかった。
NHKホールはほとんど行くことがない。ノセダのときは3階センター1列目だった。
今日は3階右サイド。前列のおっさんのハゲ頭が邪魔で仕方ない。
ちょうど指揮者とコンマスの位置に玉ねぎみたいな頭が被るのだ。
おっさんの頭が左右に揺れるすきにかろうじてアクセルロッドの姿を見ることができた。
これは席の配置の問題だろう。
オペラシティのバルコニーは手すりが邪魔だし、ホールの設計者はもっと見やすさを考慮してほしい。
カーチュン・ウォンのマーラー3番でも聴いた東京少年少女合唱隊は曲間の静かなタイミングでささっと入場。
アクセルロッド、デッドなホールの鳴らし方を心得ているのか、NHKホールなのに東京文化会館で聴いているみたいにオケがパワフルに鳴る。
第1幕が終盤に近づくにつれ、オケの響きは陶酔的で麗しいものになっていった。
合唱の響きは子供らしい、愛らしい感じ。温かみがあって、メルヘンチックなこの曲のイメージに合っていた。
前半のカーテンコールではアクセルロッドが小さな合唱団員の手を引いて登場。
幼稚園児?と思うような小柄な子が3人いた。
さて、後半。
フレージングがダイナミックになり、前半より俄然音楽が躍動し始める。
「トレパーク」なんて見事な統率力で、クライバーの「雷鳴と電光」を思わせるようなドライブ感(大袈裟?😅)。
「花のワルツ」はゴージャスで流麗。薫り高く、とてもNHKホールの響きとは思えない。
ダイナミズムもあり、立派な造型だった。これを聴けただけでも満足。
近くの女性客が「花のワルツ」で膝の上のプログラムを両方の人差し指で叩き出し、結局終曲までティンパニのごとくパタパタずっとやっていたのには閉口した。
何考えてんだ?😓
コンサートホールは魑魅魍魎の館……😓
そんなわけでせっかくの終盤が興醒めだったが、アクセルロッドは見事に代役の務めを果たした。
とはいえ、あくまでフェドセーエフ目当てで買ったチケット。
行けてよかったとはとても思えない。
アクセルロッドはまた別の機会に聴いてみたい。
東響は代役をしてくれたオピッツを定期演奏会に招聘していた。
N響も来々季の定期にアクセルロッドを招いてください。
アクセルロッドはルツェルン交響楽団・歌劇場の音楽監督兼首席指揮者なので、バレエ音楽も振り慣れているのかもしれない。
華麗でダイナミック、美しい情景が目の前に広がる「くるみ割り人形」だった。