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何ともナンセンスな二期会「影のない女」バッシング

二期会の「影のない女」がX上でものすごく非難されています。

ここで私が俎上に載せるのは、実際に鑑賞した人たちではありません。

X上では見てもいない連中が非難囂囂なわけです。

彼らはなぜそんなに憤っているのか?

それは演出のペーター・コンヴィチュニーがオペラを大胆にカットしたり結末を変えたりしているからです。

「そうだと知ってたら買ってなかった!」と言ってる人もいます。

オーソドックスな演出で見せろ!ということなんでしょう。

確かにチケット発売日の段階では大胆なカットがあることを知らせていなかった、そういう意味での“過失”が二期会にはあるのかもしれませんが、これはワールドプレミエ(世界初演)です。コンヴィチュニーの演出プランが決まるまでに時間がかかったのかもしれません。

私が疑問に思うのは、

コンヴィチュニーの演出だと知ってて買ったんだよね?

ってことです。

私は彼のオペラを見たことがありませんが、私ですら「現代屈指の鬼才オペラ演出家」だと知っています。

知らないで買った人が多かったのでしょうか?
今回の騒動で初めて名前を知ったとか?

オペラのチケット買うときに演出家が誰か気にしないのかな……。

私はクラオタの中ではかなり演劇を見てきた方だと思いますが、演劇だと「蜷川幸雄が演出するマクベスだから見たいなー」とか当たり前なんですが。

舞台セットが仏壇の「NINAGAWAマクベス」は何度も再演された蜷川演出の傑作ですが、あれも初演のときに

「何でマクベスが着物着てちょんまげなんだよ! オレらはオーソドックスなマクベスが見たいんだよ!」

って文句言われたのかしら😂

私にはそのようには思えません。なぜなら演劇というのは常に新しさを追求しているからです。現代の演出家がシェイクスピアを手掛けるとすれば、それは過去の演出家たちの作品を踏まえた上で超えたものでなければ意味がないのです。

ここが一部(多く?)のクラシックファンと演劇ファンの違いかもしれません。

今回の騒動を見て、結局昔見たプロダクションでもいいから生オケでオペラ聴きたい人が多いのかなと思いました。演劇的な感動を求めていないんですね。

演劇的な感動というのは、斬新な解釈による未知の世界観との出会いです。

クラシックファンの中には、自分がよく知ってるものを心地よく提供してほしいと思う人が増えてきたのかもしれません。

私は未知の感動を求めているところがあるので、小説も本屋大賞(エンタメ文学。ストーリー性重視)より芥川賞(純文学。文体や文章表現重視)の作品を好みます。

鬼才コンヴィチュニーのワールドプレミエであれば、相当センセーショナルな演出が期待できそうだし、二期会も当然そういうものを提供しようと思ってコンヴィチュニーにオファーしたのだと思いますが、クラオタの反応はまさかの「なんでオーソドックスな演出じゃないんだ!」。二期会事務局もさぞかしびっくりしたのではないでしょうか。

斬新な演出というのは、オーソドックスな演出に飽きた目や耳の肥えた客向けですから、日本のクラオタ界が未開だということが図らずも露呈してしまいました。企画が20年早かったのでしょう。

やっぱり「フィンランディア、シベコン、シベ2」みたいなコテコテ名曲プロが似合う国なんだと思います。外来オケがお子様ランチプロしかやらないのも当然だと思いました。

かつてピーター・ブルックという世界的な演出家がいました。
仮にピーター・ブルックが日本で「ロミオとジュリエット」をやることが決まり、その演出が大胆な読み替えだったとします。
でも、演劇ファンはオリジナルとの違いを楽しみにしこそすれ、「何で古典的な演出じゃないんだ!」と文句を言う人は少ないだろうと思います。

宇野功芳風に言えば、

ペーター・コンヴィチュニーにオーソドックスな演出を期待する方が悪い。
知らなかったとは言ってほしくない。オペラを愛する者はそれくらい知らないとダメだ。

ってことでは?😅

オペラを鑑賞した上で「この解釈や演出は全然成功していない」という批判は当然ありえます。

しかし、鑑賞前からブーイングしている人たちはコンヴィチュニーの演出ってわかっててチケット買ったのに何で文句言ってんのかね。
日本のクラシックファンはペーター・コンヴィチュニーすら知らんのか。

逆にコンヴィチュニーの演出だから買ったオペラファンも大勢いるはず。
それが急病で降板してオーソドックスな演出家に変更したらそれこそ金返せでしょ。

東京五輪の開・閉会式の演出だって、野村萬斎さんのままだったら全然違ったものになってたでしょうね。

今回の騒動は

・日本のクラシックファンは演出家でオペラを選ばない
・「とにかくオーソドックスが好き勢」が多すぎる
・そもそもペーター・コンヴィチュニー知らなかった説

など、日本クラオタ界のさまざまな課題を浮き彫りにして、私は暗澹たる思いにさせられました。

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