【本】Daniel T. Willingham『教師の勝算』:教育の認知心理学への適切な揺り戻し
木曜日はお勧めの本を紹介しています。
今回は、Daniel T. Willingham『教師の勝算』(東洋館出版社, 2019)を取り上げます。
■要約
教えることは書くことに似ている。書くことの大部分は読者の反応を予測することだ。この本は、どうすれば教師は子どもがついてくる授業をすることができるかについて「子どもを知れ」という観点で提案している。子どもを知るということは、子どもの認知活動について認知心理学が明らかにしてきたことに基づいて知るということだ。そこから意味のある授業をするための9つの作戦が立てられる。
■ポイント
1. 人間には好奇心が備わっているけれども、もともと考えることが得意なわけではなく、できれば考えることを避けようとする。
脳は極力考えないようにできており、記憶にしたがって行動するように方向づけられている。学校で考えさせるためには、好奇心を起動して、子どもの認知能力にちょうどあった問題を設定する。
2. 技能よりも先に事実的な知識が必要である。
論理的に考えたり、問題を解決したり、批判的思考をするためには、思考の対象となる知識がまず必要である。何かを理解するためには、そのための背景知識がまず必要である。より多くの背景知識があれば、新しい知識を素早く理解し記憶できる。
3. 記憶は思考の残りかすである。
効果的に教えるには、課題を通して実際に子どもが何を考えるかということに注意を払う。授業を物語のように構成することは子どもの理解と記憶を助ける方法になる。物語には4つのCの原則がある。
・Causality 因果関係:出来事同士に因果関係がある。
・Conflict 衝突:目的の達成を阻むものが存在し、それと闘う。
・Complication 障害:目的の達成から派生する二次的な問題が発生する。
・Character 登場人物:魅力的で興味深い登場人物が行動する。
探求学習、調べ学習の否定的な側面として、自由すぎて子どもが何を考えるのかが予測できないことがある。その場合、思考過程が成果に結びつかないこともある。
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