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【アドラー教科書】(41) 怒り感情の目的

火曜日は『アドラー心理学の教科書』の記事を連載しています。

2025年2月4日(火)

第2部 感情と信念

第5章 感情のしくみと目的

5.2 怒り感情の目的

私たちは自分の一部を「道具」として使います。たとえば、「頭(脳)を使う」「手を使う」と普通に言いますし、「心を使う」という言い方もまったく不自然ではありません。しかし、感情については「感情を使う」というよりは「感情に支配される」という表現の方が自然です。ただし最近では「感情労働」という名称で、接客業や医療、看護、介護職など対人の業務において、「感情を使う」業務であるためのストレスや精神的負担が注目されています。こうした業務では、本心はどうあれ、仕事としてポジティブな感情を装わなければならないところに問題があります。

不安や後悔や怒りといったネガティブ感情は、一般にはそれに自分が「支配される」ものと捉えられています。しかし、アドラー心理学では、たとえ意識的ではないとしても、自分がその感情を「使っている」とするのです。この前者を「所有の心理学(psychology of possession)」と呼び、後者を「使用の心理学(psychology of use)」と呼んでいます。

たとえば「あの人は怠け者だ」というとき、一般には「怠惰」という性質がその人に所有されていると考えます。しかし、アドラー心理学では、その人は何かの目的のために「怠惰さ」を使っていると考えるのです。ですから、その人に怠惰という性質が備わっているわけではないのです。そうではなく必要なとき、怠惰さを使うのです。これがアドラー心理学独特の人間の見方です。

すべての行動、すべての思考に目的があるとアドラー心理学では考えています。ですので、感情にもまた目的があると考えます。これは常識とは違った考え方です。私たちの常識では、自分に喜びを感じさせるような出来事が起こって、その結果として自分が喜びを感じると考えています。また、自分に怒りを起こさせるような出来事が起こって、その結果として自分が怒りを感じると考えています。つまり、感情は結果として起こるものだと考えています。

しかし、アドラー心理学の目的論ではそうは考えません。そうではなく、感情は自分自身が何らかの目的のために起こすものだと考えるのです。自分で感情をわざわざ起こす目的は何でしょうか。それはこのように考えられます。まず、楽しさ、喜びのようなポジティブ感情であれば、それは「このようなことがまた起こってほしい」あるいは「このまま続いてほしい」という目的です。逆に、悲しみ、怒りのようなネガティブ感情であれば、「このようなことは起こってはならない」あるいは「これを阻止しなくてはならない」という目的です。

特に、怒り感情は相手がいるときに起こりやすいネガティブ感情です。その感情の目的は何かというと、「こうなってほしい」という自分の願いや期待があるのに、相手がそれを裏切っているという状況があって、それを「なんとかしなくてはいけない」と行動を促すことです。つまり、怒り感情の目的は、なんらかの行動を促進することです。

ということであれば、怒り感情を使って行動を促進すれば、もう怒り感情を持続させる必要はないということです。そのときは怒り感情を使わずに「やさしく、きっぱりと」自分の願いや期待を相手に伝えればいいわけです。このとき、怒り感情を引きずっていると「やさしく、きっぱりと」言葉にすることは難しくなります。

怒り感情を引かせるための、一息入れるための考え方をしてみましょう。もしかすると私の願いや期待は私の勝手な思い込みということはないでしょうか。それを点検してみましょう。また、私の願いや期待は確実にあるとしても、それを相手に押し付けるのではなく、お願いしてみるのはどうでしょうか。

このようなことを自分で訓練してみましょう。そうすれば怒り感情を爆発させて、人間関係を破壊してしまい、取り返しがつかなくなってしまうような事態を避けることができるでしょう。

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