「ミッドジャーニー和菓子」イベントに参加しました!
先日、渋谷で開催されたイベント「Midjourney Wagashi」に参加してきました。その内容がとても面白かったので紹介します。
はじめに
まず初めに、Midjoueney和菓子イベントと聞いて、皆さんはどんなことを思い浮かべますか?
「Midjourneyって何だっけ?」という方もいれば、「あのMidjourneyで和菓子の絵を生成するの?」と気付かれた方まで、さまざまな解像度で想像されたかと思います。では、その想像の中に「Midjourneyと和菓子をつくる」ことを考えた方はいますか?——「と」ってどういうこと?と思われた方、ぜひ最後までお読みいただき、近未来の食体験に妄想を膨らませてください。
Midjourney
犬や猫のような短い単語だけでも画像は出力されますが、ゴッホ風や写真風などのスタイルを指示することで、望ましいアウトプットを(簡単に)得ることができます。
そのため、たとえば絵が苦手な人でも、想像している完成図を文字にして入力するだけで絵を作れます。また、撮影スタジオやロケ地のような場所を確保しなくても(ある程度)希望の絵を入手できる点が重宝される理由の一つです。また、それっぽい画像を手軽に入手できるため、ビジネスにおけるコスト削減が期待されています。
そのような展望が語られたり、個人が遊んだりする最中、積極的にこの最先端のテクノロジーを活用し、ハイクオリティのファッションショーが実現されている現状もあります。
一方で、希望の画像のイメージが一度の入力で得られない場合も多々あります。体感的にはむしろその方が多いです(よね?)。クオリティを高めるため、さまざまなコツや生成時間や画像比率を調整する関数などを駆使しながらも、結局のところはいい具合の画像が生成されるのを期待して向き合い続けることになります。
このようにユーザー自身が、Midjourney(などの画像生成AI)とのやり取りを通じて、画像を作っていく工程が「Midjourneyと作業する感覚」を意味する一つ目の理由です。
食×AI
オランダを拠点にデザイナーおよびフューチャリストとして活動するChloé Rutzerveld氏は、今年2023年に入ってMidjourneyを使用して実験的に活動する様子を自身のSNSにて公開しています。フューチャリストとして、未知なる未来の食を描き出すツールとしてMidjourneyを活用しています。これまで彼女は、ドローイングを描いたり、模型を制作したりして未来の食の姿を可視化してきましたが、それに加えて画像生成AIを活用することで、リアリスティックなグラフィックを通じて、これまでとはまた違った角度で思索を促すことに挑戦しています。
他にも、学位を取得できる料理の大学、バスク・カリナリーセンターでも「Gastronomy meets AI」というタイトルでコンペが実施されていました。これは画像生成AIに限ったものではなかったのと同時に、コンセプトのみだったようですが、「既存の生成AIは、シェフ(household chefと記載されていた)を真似するためのgastronomic algorithmsを持っていないことが課題である。そこで、フードペアリング、料理スタイル、盛り付けテクニック、ガストロノミー哲学、発酵プロセス、食品技術を網羅するデータ駆動型の学習を活用して、ガストロノミー・プロジェクトをゼロから構築し、最適化するためにAI技術を活用する」というアイデアが賞を受けていました。
去年2022年の11月には、GPT-3で生成したサンクスギビングのレシピをそのまま作ってみる、という企画が行われました。結果としては、生成されたレシピ自体は「それらしい」ものでしたが、残念ながら味自体は特筆すべき点がないと評価されていました。
さらに遡って2018年、「100年後の『ミシュランガイド』に載るような料理」をテーマにAIが選定した食材リストを元にシェフが料理を作るというイベントも行われていました。「世界で一番美味しくない」と言われるエチオピアの食材がリストアップされ、それをどうにか工夫する様子や、いろいろな食材が入っていて「よくわからない味」になったことが記録されています。
一番最近だと、落合先生が視覚障がい者の方が食べたいものを探求するためのAIアプリ「ochyAI」を開発して、視覚に頼らない食体験を目指すプロジェクト「DIVERSUSHI」に取り組まれていましたね。これはAI×食の文脈やインクルーシブデザインの観点に加えて、フードデザインの実践としても、とても興味があります。
生成AIとは離れますが、職人の技術を機械学習するバウムクーヘン専用AIオーブン「THEO」や、たらこの異物検出やグレード判定を熟練工に近いレベルで実現する「たらこAI検査」、AIを活用した画像認識で「きゅうりの仕分け」を行う自動化システム、ユーザーによるデザイン評価スコアを予測する「パッケージデザインAI」、給食業界向けAI献立・メニュー提案サービス「Lappy」、買い物履歴の栄養傾向からAIが栄養バランスの整う食材やレシピを提案する「SIRU+」など、機械学習およびディープラーニングを活用した種々のサービスやビジネスが展開されています。
イベントレポート
さて、前段が長くなりましたが、ここからが本題です。
Midjoueney和菓子イベントとはどんなものだったのか——主催者の一人、宮武さんはこのように告知していました。
この告知とともにSNSに公開されたビジュアルがとてもかわいく、その雰囲気と相まって、なんだか不思議なことが起こっているぞ?面白そうすぎないか?というワクワク感が湧き起こりました。
そんな期待感を胸に、イベント会場の和菓子Bar「かんたんなゆめ」を訪れましたが、当日はその期待感を遥かに超える驚きを味わいました。
驚きポイント① 和菓子の再現度が高い
驚きポイント② 再現された和菓子が美味しい
驚きポイント③ 100枚超の生成画像がどれも和菓子っぽい
“Computational Wagashi”
まず1点目は、見た目が涼やかな錦玉羹(きんぎょくかん)です。
“Computational Wagashi”というプロンプト(=入力する文字)から生成された画像を元に、3Dモデルを設計し、シリコン型を制作して再現された和菓子です。生成画像の中ではマットな質感で描かれていましたが、透明な材料で即興的に作った試作品が思いのほかしっくりきたそうで、「改めてマットな見た目で作ったら、あまり美味しそうには見えず惹かれなかった」ため、やっぱり透明な見た目の完成を目指したそうです。フォルムから想起される「ぷるんっ、ちゅるんっ、むにゅっとしたゼリーのような食感を再現するために、低強度かつ粘性の高い伊那寒天の”大和”を使用」しています。
ジンやレモンなどを使った「アンシャンテ」というカクテルをベースにしたレシピで作られています。しかし、そのままでは「少し甘ったるい感じがしたので、ライチを足して調整しながら、ビジュアルイメージと食感と味を仕上げた」という爽やかな一品です。ここで使われたカクテルはフランス語で「はじめまして」の意味があり、初のAI×和菓子にぴったりな、粋なチョイスも素敵ですね。
実際に食べてみると、写真の通りぷるんっとした食感で、ライチの風味も爽やかで本当に美味しかったです。菓子切でサクッと切れて食べやすくもありました。何より透明感が綺麗だったので、いろんな角度から眺めて楽しめる、そんな一品でした。
“Computational Wagashi”
同じく“Computational Wagashi”というプロンプトから生成された和菓子ですが、2点目は練り切りで再現されました。
かんたんなゆめ定番のレモンとクリームチーズ餡を使った練り切りは、出会ったことのない見た目と味わいが見事にマッチしていました。こちらも生成された画像と比べて「少し淡い色合いになるように調整することで、和菓子らしさを出した」そうです。また、画像では「機械的に見えたので、あえて手作りっぽく」するなど、AIが考える和菓子らしさを、食べる人が考える/感じる和菓子らしさに翻訳する工夫が施されています。とはいうもののパッとみた時には、どうやって作ってるんだろう?!と思うほど繊細で、実際に手作りを実演するときの職人技の手捌きには驚きがありました。
土台部分の上に乗っている花のパーツは、「あんフラワー教室に通ったことがある」宮武さんが提案したことで再現されたそうです。「あんこを絞る技術は普段の和菓子作りでは使わない」とのことでしたが、生成された画像を再現するプロセスの中で生まれるクリエイティビティで、まさに今回の活動の醍醐味だなと感じました。
”A new style of wagashi”
3点目は”A new style of wagashi”というプロンプトから再現された和菓子です。
「一見簡単そうだけど、特に難しかった」のが、このさくらんぼのような?和菓子だったそうです。半透明になるよう僅かに白餡を混ぜた半錦玉を、「二つの層が分離したり、色が混ざったり」しない「絶妙なタイミング」を狙って重ねる難しさを見事に乗り越えていました。
この和菓子の面白ポイントは、画像を再現したことで浮かび上がる絶妙な違和感だと思います。てっぺんに刺さったさくらんぼのヘタ、ちょこんと乗っかる練り切り——いろんなアイデアを捻り出した結果、深夜テンションでパッと出した一案があって、それがどことなく心惹かれるなあ~なんか好きなんだよな~みたいな時ありますよね?そんな感じの愛くるしさを感じました。
”Wagashi with computational design”
4点目は”Wagashi with computational design”というプロンプトから生まれた和菓子です。
「メインの部分は透明感のあるピンクの錦玉羹と、葛を合わせた吉野羹でグラデーションを表現」しています。羊羹だとくすんでしまうので、「白を出しやすい&ツヤを残した和菓子ならではのグラデーションの美しさを知れる吉野羹」を使用したそうです。素材への知識が深い職人とコラボレーションすることの重要性を物語っている一品でした。そのほかの作品にも共通しますが、生成された画像を再現するための知識や技術、素材選びが、このイベント全体のクオリティを作り上げているなと強く感じました。
宮武さんと寿里さん、お二人は「なんでも言い合える関係性なのがよかった。お互いが得意な分野があって、それぞれ尊敬して、信頼できた。」と語っていました。今後デザイナーやデジタルクリエイターが食の領域で活動する時、食の専門家と協力することの大事さ、共創の価値が示されています。
”Wagashi enjoying life as a freelancer”
最後は”Wagashi enjoying life as a freelancer”というプロンプトから生まれたミニチュア練り切りです。
「フリーランスとして人生を楽しむ」自らの姿に重ね合わせた和菓子は、なんとも可愛いキャラクターで再現されていました。パソコンに背を向けて、お菓子に囲まれている姿が生成されたのは本当に面白い!このように、意外な視点でビジュアルを描き出すところは生成系AIの長所だなと改めて思わされました。
なんとも言えないゆるふわ感がとても良いですよね。今回のプロジェクトを通じて、出力の自由度を残すためにシンプルなワードを使い、細かなチューニングをしなかったそうです。そんな中で、この癒されるキャラクターが生成されたのは、ある意味「引き」が強かったのかもしれません。そういった偶然の産物を楽しむことも生成AIとともに創造する時の心得だなと感じました。
AIと人の創作のバランス
今回のイベントでは生成AIはビジュアルイメージを作る、つまり図案を作ることだけを行なっていました。そのイメージに対して、人間側が材料や再現方法を考えるという役割分担をしていました。この分担のバランスがとても良かったので、主催のお二人も、参加者も楽しめたのではないでしょうか。
「画像を見てすぐに作り方を想像できない時も、まずは手を動かし始めて、作りながら考えた」「向こう[AI側]も答えを持っているわけではない」「ゴールだけ決まっていて、そのプロセスを辿るように試作した」「画像を拡大したり、明るさを変えたりしながら作り方を探った」「あまり使ってこなかった技術や技法を使えるか?と想像を膨らますのが楽しかった」「知っているけど普段は使わない技法を掘り起こして試すのは面白かったし、新鮮だった」という言葉に表れている通り、最終的な完成品を作る側に想像の幅があることがクリエイター、職人としての満足度に繋がったように見えました。「3Dモデルを設計する場合も、2次元の画像では見えない下の面や別の角度からのディテールは想像で作り上げる過程があり、そこに設計者の腕の見せ所があるのと同じだ」と話されていました。
これまでのAI×食の事例が、生成されたレシピをもとに料理を作ろうとしたのとは異なり、食べものを構成する要素の大部分をコントロールできる、というバランスがいい結果に繋がったのでしょう。何よりAIが提示するお題に想像力を掻き立てられ、その状況を楽しんでいるところが良いなと思いました!
おいしいインターフェース
もう一つ良かったのは、2次元の画像の状態から3次元の食品に再現されたことです。これはデザイン活動的な良さの話です。出来上がった和菓子を五感を通じて体験できるようになっていたことが最大のポイントです。
デザインやヒューマンコンピューターインタラクション(HCI)の分野では、新しい製品やサービスを検証するにあたって、その世界観を構成する一部としてのプロダクトを制作することがあります。それをデザイン・フィクションと呼んだりしますが、今回の場合は再現された和菓子がデザイン・フィクションで、AIが組み込まれた近未来の食体験を味わえる状況を作ることに貢献しました。新しいテクノロジーやサイエンスと人々の間のおいしいインターフェースとなり、抵抗感なくAIのことを考えるきっかけになったのではないでしょうか。
HCIの中でも食をテーマにする研究領域では、これまでの10年間は技術偏重になりがちだったので、改めて食材に向き合うことで、食の美的、感覚的、社会文化的な側面にも目を向けようという動きがあります。AIという技術が作り出したイメージを、人が豊かに体験できるように工夫するというコラボレーションのあり方は、それをまさに体現していたと思います。
図案家としてのMidjourney
和菓子には図案が存在します。
手書きの意匠に加えて、短歌や俳句、花鳥風月、地域の歴史や名所に由来する菓銘が添えられ、商品カタログのようにまとめられたものは菓子見本帳と呼ばれます。中には、年明けに行われる歌会始(うたかいはじめ)のお題と干支にちなんだ菓子の意匠を、いまで言うグラフィックデザイナーが描いて掲載した図案集なども残っています。
お題(プロンプト)をもとに図案が作られる、見本帳には特に材料についての記載はなく図案があるのみ、と言う状況が今回のプロジェクトと似ていて興味深いなと気付かされました。おそらく当時も図案を見ながら職人が形にしていったのでしょう。
先に引用した告知文の中で「Midjourneyに和菓子のデザインを考えてもらいました」という言葉がありましたが、AIには図案家としての役割があり、プロジェクトの中である種分業が成立していたと言えます。これが冒頭で「Midjourneyと和菓子を作る」と書いた意味でした。
いかがだったでしょうか?共創の様子や面白さが伝わっていたら嬉しい限りです。
イベント期間中とそれ以降も店内に100枚を超える生成画像が張り出されていましたが、画像のおかげで来場者との会話が弾んだそうです。また、今回特に気に入っていた”Computational Design”というキーワードで生成した画像は、手作業では難しい幾何学模様だったので、シリコン型を制作したそうです。しかし「シリコン型で練り切りを作るとエッジが出ずにうまくいかなかった」ので、寒天を使用した和菓子になったとのこと。そこで次回は木型で挑戦したいと話していました。しかも「CNCで削りたい」ということで、食×デジタルファブリケーションが開拓されていきそうで、これまでにない組み合わせのクリエイティビティが見れる楽しみがありますね。
MidjourneyのCEOデイヴィッド・ホルツ氏は、画像生成AIは「人々のイマジネーションを解放する」というポジティブな立場をとりますが、新たなツールを使いながら発想を広げられる可能性に期待しています。また、隈研吾氏は、自身の建築を学習させてデザイン案を生成させたとしても「隈研吾をどう超えるか」を考えると言います。その上でデザイン案を選択してブラッシュアップさせるのは人間の仕事です。AIという存在、ツールと切磋琢磨していくような捉え方も面白いかもしれません。
MidjourneyではなくStable Diffusionを用いた事例ですが、AIで生成した壁面のデザインをもとに左官職人が再現するという方法が提案されています。実際に作成されたサンプルは、今回の和菓子と同様にクオリティがとても高く、新たな可能性を感じさせます。このようにAI×職人技がものづくりの潮流になる兆しが見え始めています。
さいごに
今回はイベント終了後、お二人にインタビューする機会をいただきました。その中で「生成AIは一期一会なのも面白い」という言葉が印象的でした。同じプロンプトを入力したとしても、同じ画像が出力されることはありません。一期一会は茶道に由来する言葉で、今回のAI×和菓子にぴったりな言葉だなと、インタビュー後にハッとしました。プロンプトとしての言葉、生成される画像あるいはその他の出力物、職人、季節、食材などの揺らぎを楽しめる食体験に今後とも注目していきたいです。
この記事には掲載していませんが、ぜひ宮武さん自身のSNSで紹介されている生成画像もチェックしてみてください!
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日時|6月7日[水] / 14日[水]
会場|かんたんなゆめ 渋谷
東京都渋谷区神山町41-3
デザイン生成・3D設計・型制作|Mako Miyatake (@makomiyatake)
和菓子作成|Juri Tanaka (@kantan.na.yume)
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本記事は執筆時点での情報をもとに書いたため、最新情報であるとは限らないことをご承知ください。さらに、本記事の内容は私見によるものであり、必ずしも所属企業の立場や戦略、意見を代表するものではありません。
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