法制審議会家族法制部会ウォッチ8(大石委員と棚村委員)
ドカンドカンと炸裂したご発言に続きまして,ここからクールに
○大石委員
まず,私は労働経済と社会保障が主な研究分野で,この分野の関係では母子世帯の貧困とその要因について,大規模データを用いた計量分析を行ってまいりました。これまでの研究との関連で3点,問題提起させていただきたいと思います。
まず,第1点なのですけれども,エビデンスベースでの議論を進めるためにも,離別親子を追跡するような大規模な調査を実施したり,あるいは行政データを活用する可能性を御検討いただきたいと考えています。この部会では養育費と面会交流の関係について様々な議論が行われることと思いますけれども,両者の関係については法律的には別の問題とされておりますが,子の養育への父母の関与という面ではかなり重要な問題となっております。
私が研究した範囲では,海外の研究の多くでは,養育費支払いが面会交流を促す効果は見られる反面,面会交流が養育費支払いを促すかというと,それについては余り信頼できる結果が出てきていないという傾向にあります。翻って日本では,そうした実証研究がほとんどなされておりません。養育費と面会交流の関係について正しく因果関係を把握するには,一時点の,つまりクロスセクションでの調査では不足で,夫婦と子どもそれぞれを離別後も追跡調査して,経済状態や親子間の交流についてフォローするようなパネルデータを用いる必要があります。海外ではそういった調査ですとか,あるいは行政データの利用が行われているのですけれども,日本ではそのような趣旨の調査が行われておりません。ですので,この点を是非,調査の企画と実施について御検討いただければと思います。
2点目なのですけれども,制度がどのようなインセンティブを人々に与えるかということを考慮して法改正に当たっていただければと思います。一例を挙げますと,養育費や面会交流の取決めをしていなければ離婚ができないようにするという案も議論されていると伺っております。しかしながら,離別したくない側から見ると取決めに応じるインセンティブは出てこないということになります。親講座を受講することを課すということについても同じではないかと思います。個人的には,離別時ではなくて,むしろ子どもが生まれるときなどに,全ての父母が子どもの養育責任について学んでおいた方がいいのかもしれないとも思っておりますが,それはさて置き,こうした制度改正に当たっては,人々に与えるインセンティブの問題ということに是非御配慮いただきたいと思います,場合によっては,経済学で近年発展が著しい行動経済学の知見をいかすということもできるかと思います。例えば,税金の納付を促す際に,ただ払ってくださいと言っても支払いが順調にはいかないのですが,既に90%の人が払っていて,あなたは払っていない少数に属しますといったようなお知らせが付いていると,納付率が高まるといったことが明らかになっています。ですので,そのように人々のインセンティブや動きということについて考えていくということも必要かなと考えます。
最後は,子どもの権利保障の問題です。これまで子どもの貧困について研究してまいりましたけれども,子どもが十分なケアと経済的保障を得ていないケースが多々見られます。
それは父母の側の問題だけではなくて,経済環境やセーフティネットの不備なども原因となっておりまして,ですので,それについては公的な支援が不可欠だと考えております。
私もシミュレーションを行ったことがあるのですけれども,養育費を100%徴収できたとしても,母子世帯の貧困問題がどれだけ緩和されるかというと,余りめざましい結果とはなっておりません。したがいまして,次世代育成の観点から,子どもが父母,そして国から養育される権利を持つことを明らかにして,それを確立できる方向に制度改正が行われることを希望しております。
以上です。ありがとうございます。
○大村部会長 ありがとうございました。先ほど他の委員からも御指摘がありましたけれども,調査の必要性ということですね,特に養育費と面会交流の関係を明らかにする必要があるのではないかという御指摘,あるいは,制度を作ったとき,それがどういうインセンティブをもたらすのかというような観点が大事だというような御指摘を頂きました。他方,子どもの貧困に対しては,やはり公的な支援が不可欠であろうという御指摘も頂いたかと思います。
そのほか,御発言はいかがでございましょうか。
そして,ここから,つづく
○棚村委員
棚村です。皆さんのいろいろな御意見を伺って,これからたくさん勉強しながら進めたいと思っています。私の方から,検討の視点ということで3点,それから,検討の順番ということで2点ほど,少しお話をさせていただきます。
一つは,これまでも子どもあるいは家族の問題について,法務省や厚労省などを通じて実態調査,それから海外調査,ヒアリング調査,こういうことに関わらせていただきました。それで,戒能委員などもおっしゃっていましたし,大石委員もそうだと思いますけれども,やはり日本でも法改正の議論をする際に,実態把握,それから,実情調査をやはりきちんとした上で,できる限り客観的なデータに基づいたエビデンスベースの議論を心がけるべきではないかというのは,皆さんとほぼ共通に考えています。
ただ,2点目に,とはいっても家事事件ですと,法律をやっていますと,法的に重要な効果を発生する要件事実論というのがあって,要するに,客観的に何があったのかという客観的,実在的な事実,これももちろん重要だと思うのですけれども,これだけではなくて,当事者から見て感じた,あるいは当事者の目に映った事実,つまり主観的,心理的な事実,これもかなり重要でして,特に家庭の問題を解決する場合には,この主観的な心理的な事実みたいなものも重視しながら組み入れて解決をしないと,実効的な解決にはならないと感じています。これが第2点目です。やはり客観的実在的事実というか,法的に何が重要かというのはかなり大きいことですけれども,やはり当事者の側から映った側面での心理的事実にも配慮する必要がある。
それから,3点目なのですけれども,海外での様々な経験を参考にしますと,単にやはり法制度や法律の改正だけではなくて,当事者がどの段階でどのような支援を必要としているのだろうか,その支援ニーズとか社会的な支援制度というものも充実強化しないと,根本的な解決とか救済,保護にはならないと思います。つまり,法整備と社会的支援制度の強化,これはワンセットで議論する必要があるのだろうと思っています。今回,様々な立場の方々の御意見,考え方をお聞きしながら,やはり充実した審議というのに努めたいと考えた次第です。
それから,検討の順序ということですけれども,やはり子どもの養育の問題というのはかなり重要であろうと思いますけれども,先ほど来出ているように,9割近くを占めている協議離婚の実態がなかなか明らかになっていませんでした。そこで,その実態と問題点みたいなものを,メリット,デメリットがあるとすれば,そういうものをきちんと明らかにしたり,踏まえながら,取決めの合意をどうやって促進するかとか,例えば海外のような養育計画みたいなものをどう策定するか,それから,今,厚労省の御支援もあって,離婚前後の親支援講座というものについての推進ということも少し関わって,東京都のそういうプログラムとか,冊子とか,いろいろなものを検討しています。その中で,やはり親ガイダンスをどの時期にどんなふうにしたらいいのだろうかとか,協議離婚におけるルールとか,実態を踏まえた制度の在り方を検討してはどうかということを考えております。
それから,何から順に取り上げてというとき,養育費というお話もありましたけれども,そういう意味では,当事者や支援される方や現場の声をまず聴いてから,我々として,それを踏まえた上で,どういう順番で議論をしていったらいいか。特に,財産分与とか未成年養子とか,いろいろありますけれども,子どもの養育の中でも,どういうような形で議論を今後始めていくかというときに,当事者の方たちの声を是非早めに聴いて,それを踏まえた上で審議をしていけばよいと考えています。もちろん法律論も大事だと思うのですけれども,法制度だけでは,本当に子どもたちの笑顔や未来を守ってあげられません。子どもたちを大切にしたいという気持ちは参加している皆さん,一緒だと思うのです。ただ,アプローチやそれぞれ立ち位置とか,関わっている立場なんかもあると思いますので,是非皆さん,力や知恵を合わせて,こういうような形で審議が充実していけばと思います。すみません,長くなりました。
○大村部会長 ありがとうございました。たくさん御指摘を頂きましたけれども,その中で,特に当事者に焦点を合わせる,当事者の観点から,当事者の心理に即してといったお話と,それから,審議に当たっても現場の声,当事者の声というのを聴く機会を設けるべきではないかといった御指摘を頂きました。全体に関わる話として,皆様,様々なお立場の方がいらっしゃると思いますけれども,最後におっしゃってくださったように,知恵を持ち寄って,できるだけよいものを作るということを考えていくべきではないかという御趣旨と承りました。
エビデンスベースからの,しかし,ヒアリングをしていこう,というので,ここが,その後の2回目,3回目の流れを作っていったのかな?というように読める
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