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法制審議会家族法制部会ウォッチ12(小粥委員と石綿幹事)

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○小粥委員

小粥でございます。議論の進め方に関わるようなことについて二つと,それから,具体的な問題について,二つ,申し上げさせていただきます。
一つ目は,親権についての問題の議論の仕方でございますが,先ほど窪田委員がおっしゃったとおり,今まで親権という名前の下で議論されてきたことを分解して,一つずつ具体的に議論するということは非常に重要だと私も強く共感を覚えたところでございます。それが一つ目。
 二つ目は,参考資料1-8にある報告書の中身にも関わるところでございますけれども,多様化する離婚後の子の養育の考え方があるということを尊重してのことだと思うのですが,特に,報告書では離婚後の子の養育の在り方について当事者の選択に委ねるというようなことが,いろいろなところでそういう考え方が示されております。これは多様性を尊重する,あるいは画一的な法の押し付けを回避するという点では非常に評価すべきところだと思いますが,他方で,当事者の選択に委ねた場合に実際にどうなるのかと,当事者の利害が一致するとは限らない,むしろ一致しない方が普通だと思いますが,そういったときに選択に委ねるという立法政策がどのような帰結をもたらすのかというようなことも考慮に入れた上で,丁寧に粘り強く考えて,よりよい立法に向けた議論をすることが必要ではないかと,それが2点目でございます。
 つぎに,各論ですけれども,一つ目は親権に関わることでございまして,この報告書の中身の親権概念,やはり決定権限とか決定権に関わるものが中心で,やや薄いのではないかと。つまり,様々な問題が親権の名の下で議論されますが,やはり監護教育の面の実質的なところが何となく,抜けているとは言いませんけれども,実際に親がこういう苦労をしているという面が,職責の部分ですね,義務と申しますか,そこの辺りがやはり報告書では薄いという感じがしまして,せっかく親権を分解して問題を検討しようとするときに,出発点がやや小さくなっているような印象を受けますので,問題を整理する際に,出発点は広く取った方がいいのではないかという印象を持っております。
 各論の二つ目,最後になりますが,養育費について,細かいですけれども,気になることとして,養育費請求権の債権者は誰かという問題を改めて確認した方がよいのではないかと。実務的には,親権を持つ親が請求権者になっていることが多いとも聞きますけれども,これを子の権利であると,債権者は子だとしなければ,なかなか履行確保策,あるいは執行を強化するという政策を強く後押ししていくことは難しいのではないかという印象を持っております。この点は,養育費の問題を検討する際,とにかく強くしていくというだけではなくて,そもそも出発点として,養育費の債権者は誰かということを改めて丁寧に,窪田委員の最新の教科書ではそのことに触れておられたと思うのですけれども,トピカルな問題ではないかとも思っています。
○大村部会長 ありがとうございました。進め方について,親権については分解をして具体的に議論をする方がよい,ただ,報告書で扱われている親権の概念はやや狭い,あるいは薄いのではないかという御指摘を頂きました。それから,多様化に対応するために,当事者の選択に委ねるという考え方が出されているけれども,選択に委ねた結果どうなるのか,先ほどインセンティブの問題についての御指摘がありましたけれども,制度を作ったらどうなるのかということについて考えておく必要があるだろうという御指摘をいただきました。最後に,養育費の性質を明らかにする必要があるのではないか,債権者が誰かということがありましたけれども,扶養請求権との関係とも絡むような問題があるのではないか,その点を考えないと請求権の強化も実現しにくいのではないか。このような御指摘を頂いたと思います。

○石綿幹事

2点ございます。一つは議論の進め方について,もう一つは,検討事項に関連するかと思います。
 1点目は,子の利益についてです。冒頭に沖野委員がおっしゃったように,今回の法制審というのは子の利益の実現という目的意識が強いものだと思いますし,また,今までの議論からも,委員,幹事の先生方の中で子の利益を重視していくことについては一致するのではないかとは思います。しかしながら,具体的にどのような制度を考えていくかということになりますと,子の利益を重視するということは共通していても,例えば,部会資料1の第2の1,2で挙げられているような制度,特に離婚後の父母と子との面会交流や離婚後の子の養育への父母の関与については,様々な見解があるのではないかと考えられます。立場が分かれる理由を考えてみると,想定している子が置かれている状況についての認識が異なること,何が子の利益なのかということの認識が様々であること,子の利益を短期的に考えていくのか,長期的に考えていくのかということ,また,そもそも子と一口に言っても,年齢の幅がございますので,どのような子を念頭に置くかということ,これら様々な点が,見解の相違を生むのではないかと思います。
 細かく場合分けをするということは,最終的な立法を考えると現実的ではないと指摘される面はあるかとも思いますが,両親の関係性や子どもの状況について,ある程度の場合分けをした上で議論していく,どのような子について検討していくのかという点を明確にして議論していく,ということも必要なのではないかと思います。
 さらに,運用を考える際には,子の利益をどのように判断していくのかということも重要な視点になっていくかと思います。オーストリアなど諸外国の立法のように,子の利益の考慮要素を明示するということまでは難しいかもしれませんが,どのようなことを子の利益の考慮要素と考えていくのかということを検討していくということも必要なのではないかと思います。
 子の利益というのは,今回の議論の重要なキーワードになると思いますが,抽象的に用いていくだけでは議論を空中戦にしてしまう可能性があるワードではないかと思います。
 具体的にどのような子の利益を考えているのかということを意識しながら議論等ができれば,より建設的な議論になるのではないかと思っています。
 2点目ですが,久保野幹事の御発言とも関連しますが,その他の検討事項として,特に両親が離婚を前提に別居を開始したような場合の子の養育についての検討も必要なのではないかと考えております。両親が別居を開始するというのは子どもの生活状況や経済状況について一定の影響を与えるのではないか,場合によっては,両親が離婚する時点よりもその影響は大きいのではないかと思います。そこで,両親が離婚を前提に別居を開始したような場合における,養育費や面会交流など子の監護についての必要な事項の取決めの在り方,両親の子の養育への関与の態様について検討していくということも必要なのではないかと思います。しかしながら,別居という概念をどのように確定していくのか,夫婦の間にどのような状況があれば別居と判断することができるのかということ自体が難しいと思いますし,仮に民法に別居概念,あるいは,これと類似する考え方を導入した場合,嫡出推定など他の制度に影響を与える可能性もあるかと思います。このように難しい問題もございますが,可能でございましたら,適宜の場所で検討する機会があればと思っております。
○大村部会長 ありがとうございました。大きく分けて2点,御指摘いただいたかと思いますが,一つは,子どもの状況とか子どもの利益ということが言われますけれども,それを分節化,類型化して議論するということが議論をかみ合わせる上で重要ではないかという御指摘だったかと思います。議論がうまくかみ合うような工夫が必要ではないかというのは,複数の委員,幹事から御指摘を頂いているところでございますので,十分に注意をしていきたいと思いました。それから,もう一つは,大きく捉えてどういう場面を考えるかということで,離婚後ということに焦点を合わせているわけですけれども,別居時というのも考慮に入れる必要がある。先ほど,赤石委員だったでしょうか,婚姻外の非婚の場合も視野に入れる必要があるのではないかといった御指摘もありましたし,久保野委員からは,離婚に限らず,婚姻継続中も含めて,広くその問題を捉えるべきだという御指摘がありましたが,それに通ずる御意見として承りました。ただ,別居ということになりますと、別居概念をどうするのかということがあって,これは御指摘のように,嫡出推定を始め,家族法上の他の問題と関わるところもございますので,別居を取り出して何か規律をするということになるのならば,その辺りの整理も必要だろうという御指摘も頂いたところかと思います。

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弁護士古賀礼子
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