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暑苦しいほどに「るろうに剣心」を語る。ー天翔龍閃編ー

という訳で、前回に引き続きお届けする自己満足コンテンツ「暑苦しいほどにるろうに剣心を語る」シリーズ。
前回の投稿で書いた「京都大火編」の山場の一つ、「天翔龍閃 (あまかけるりゅうのひらめき)」伝授の回がついに放送されました。
今回はこの回がどのようなものだったのか。
そして私なりの評価を書いていきます。完全に独断と偏見。そしてるろうに剣心への愛で構成された内容です!
前回の投稿はこちら↓


るろうに剣心の分水嶺となる回である理由

以前の記事でも書いた通り、この回は「るろうに剣心という物語をどう解釈するかの鍵を握るポイントの一つ」となります。
その理由は、この回が奥義会得を通して
「生きるとは何か?」
「生きることの意義とは何か?」
という哲学的な意味に正面から向かい合い、作者なりの最大限の答えを描いたものだからです。

るろうに剣心以前の漫画では、「非常に肉体的に苦しい課題を与えられた結果、最終奥義を会得する」というパターンがほとんどです。
その点この「天翔龍閃」の会得は趣が全く異なります。
肉体的にはそれほど追い込まれない。その代わり「今までの自分の人生を極限まで見つめ直し、数十年間に及ぶ人生の中でたった一つ欠けていた、とても小さなピース・・・しかし、剣心が人として生きて行くために絶対に取り戻さなくてはならない大切なピースを自らの心の中に見つけ出す」という、ある意味究極の試練を乗り越えなければならないのです。

恐らくこのような問いを少年漫画、しかもドラゴンボールとかスラムダンクとかが流行っていた”イケイケ・ドンドン”時代の週刊漫画で取り扱ったのは、るろうに剣心だけだと思います。

もちろん現実には、緋村剣心のように何百という人を切り殺すほどの罪を背負っている人はそうはいません。しかし、たとえ少年漫画を読むような世代であっても何かしらの心の闇や罪 (と自分が思うもの) を背負っている人は多いはずです。
そのような若い世代にとって、このような哲学的な問いを示し、それを主人公が悩みに悩ん挙句、命をかけて答えを見つけ出したことは、とても意義があることだと思います (少なくとも私は「いつか俺も自分だけの答えを見つけ出せるはずだ」と感動しました)。

この回の内容 (知っている人は読み飛ばし可)

まずはざっくりとこの回の内容をご説明します。
志々雄一派との戦いの中で、今の実力では勝利することはできないと痛感した緋村剣心は、今以上の力を求めてかつて喧嘩別れした師匠「比古清十郎」の下を訪れます。
以前の修行で習得することのできなかった飛天御剣流の奥義を会得するためです。その奥義の名が「天翔龍閃」。冷静に考えるとかなり厨二病的な名前ですね・・・笑。
その奥義の正体とは超神速の抜刀術。抜刀術というのはいわゆる「居合い抜き」の名前で世間に知られているアレです。刀を鞘に収めて、そこから凄いスピードで引き抜いて相手を切るという技。これのメチャクチャ速い技ってこと。
まぁ、それだけのことなんですが、さすがに奥義というだけあってその習得は命懸けです。
奥義の伝授のためには、師匠が放つ九頭龍閃 (くずりゅうせん) という技 (=飛天御剣流の中で天翔龍閃の次に速い) よりも、さらに速いスピードで切り込んで、師匠の技を破らなくてはならない。もし失敗すれば即座に命を落とすことになる。一回しかチャンスのない文字通り「命懸け」で会得する技なのです。

剣心はその説明を受けた後、師匠の九頭龍閃を”命を捨ててでも”会得しようと決死の覚悟で挑みます。
・・・が、師匠である比古清十郎は「今のお前では奥義を会得できない。一晩時間をやる。自分の心の中を探って、自分に欠けているものを見出して来い。」と伝え、次の日へ奥義伝授は次の日へ持ち越しとなるのです。

果たして剣心は自分に欠けているものを見出し、奥義を会得することができるのか。
それとも師匠の九頭龍閃の前に命を落とすことになるのか。
果たして・・・。

これがこの回の概要となります。

欠けていたものとは何か?

そもそも緋村剣心は主人公に求められる全ての要素を一つにまとめ上げた、絵に描いたような主人公です。
幕末最強の人斬りとして伝説となるほどの圧倒的強さ。
目の前の力なき人たちを自らの命を賭して守る、強い正義感。
相対するすべての人の心を柔らかく包み込むような優しさ。
そしてイケメン(笑)。
こんな完璧な主人公に欠けているものなんてあるのか???私もリアルタイムでるろうに剣心を読んでいる時、ずっと考えていました。剣心は比古清十郎に「一晩時間をやる」と言われて考えていた訳ですが、私は次の号が出るまでの1週間考え続けた訳です笑。←完全にアホだな。
で、答えはわからないまま1週間が経ち、答え合わせの日を迎えました。

結論を言ってしまうと、その答えとは「生きようとする意志」でした。
剣心は幕末に多くの人の命を奪ってしまった悔恨の念から、自分はいつ死んでも構わないと心に決めていた。
いつ死んでも構わない命なのだから、自らの身を挺して人の役に立つような生き方をしたい。
目の前の人たちを守るために自らの命を顧みないことは、一見高潔な生き方のようにも見えます。
しかし、自らの命を易々と諦めてしまうことが逆に心の弱さを招き、時として人斬りの性という心に巣食う狂気に自らを委ねてしまうことになる。
その弱さを師匠は見抜いていたのです。

師匠としては恐らく剣心がそれに自然と気づくことがベストシナリオだった。しかし、一晩考えても剣心はその答えが見つからなかったという。
そこで師匠は、剣心に取り憑いている「自己犠牲としての死」あるいは「贖罪のための死」という、どこか死を美化するような退廃的な考えを問答無用で切り捨てるような”絶対的な死”を示す必要があった。もしそれで本当に剣心を斬り殺すことになったとしても。
果たして剣心はその師匠の示した絶対的な死を前にして、生きようとする意思を取り戻し、見事その奥義を会得することができました。

どうしても必要だった「死」の姿

つまり天翔龍閃の会得とは、死を乗り越えて一歩踏み出す意思の力がその根幹だったのです。
したがって、その「死」をどれだけ絶対的なものとして描き出せるかによってメッセージの強さがまったく変わってしまいます。

以前放送されたオリジナルのTV版では、剣心に優しく接してくれた女性たちが無惨に斬り殺されるシーンや、彼女たちが命をかけて剣心を守ろうとした姿を丁寧に描くことで「死の絶対性」を演出していました。
それは原作の漫画とは違うアプローチでしたが、強い悲哀を描いたことで見る人の感情に訴えかけるものであり、私としては結構お気に入りの仕上げでした。
前回の投稿でも書いていたように、今回のリメイク版でどのように描かれるのかをかなり注目しておりました。
リメイク版はかなり原作に忠実ですので「原作通り」で行くのか、「オリジナル版の時と同じ」なのか、それとも全く違う「独自アプローチ」で攻めるのか・・・。
果たして結果は3番目の「独自アプローチ」でした。
そのアプローチとは「死」のグロテスクな面を描くことで、その恐ろしさと絶対性 (=あらゆる人に襲いかかり人生を問答無用で終わらせる絶対的なもの)を描き出す。
「自己犠牲としての死」あるいは「贖罪のための死」というような甘美な響きを完膚なきまでに叩き潰す「死」を描き出したのでした。

そして剣心はその「死」を眼前に突きつけられた瞬間、ヒロインである神谷薫や仲間たちとの出会いの中で剣心の中に積み重なった、「自分の命がかわいいからではなく、大切な人たちの幸せのために自分は生きなくてはならない」という強い意思を揺り動かすことができたのです。

演出で分かった製作陣の本気

この演出をどう評価するかですが・・・結構難しいなぁというのが個人的な印象。
私はオリジナル版のTVの演出がかなり気に入っていたので、心情的には前の方が良かったなぁというのが正直なところです。
しかし、前のものを知らない人が初見で見たら、むしろ今回のものの方が「死」を冷徹に、リアルに描いたという点でより真に迫った演出だったと評価するかもしれません。
これはもう私の中でるろうに剣心に対する思い入れと、これまでの記憶がある以上どうしようもありません。どちらもあり得る評価だと思います。あるいはどちらが良かったかを論じても仕方ないかもしれません。

ただ、一つ分かったのは、このリメイク版の製作陣が本気でるろうに剣心という作品に向き合っていることです。
普通に考えれば「オリジナル版踏襲」か「原作に忠実」のどちらかで行けば、間違いないはずです。批判されない、と言いますか。
でもそこを敢えて変えて来た。
彼らなりの解釈で緋村剣心の「死」への向き合い方、「生きようとする意思」を取り戻す姿を丁寧に描こうとしたのは間違いありません。
そこに正面から向き合った結果導き出したのがこの手法だったということが明らかなので、私の理想と違っていてもそれを受け入れることができるのだと思います。

かつての人気作品をリメイクすることは、商業的には容易そうに思われますが (「ハズレなし!」という意味で)、名作であるほどファンの目は厳しくなるのでとても神経を使うでしょう。
しかし、それに敢えて挑み、私のような鬱陶しいファンも納得させるようなシナリオをしっかり仕上げてくるところは本当に恐れ入ります。
この製作陣であれば今後の展開も期待できる!
そう確認した回でありました。

さて、次の見どころは十本刀、特に
「安慈 vs 左之助」
「宇水 vs 斎藤一」
「宗次郎 vs 剣心」
この3つの戦いがどう描かれるかです。
この製作陣ならきっと原作通り、いやそれ以上のものにしてくれるはず!
そう期待しながら放送を待ちたいと思います。
いやー楽しみです!!!

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